山火事:データは何を語るか?

カリフォルニア州の山火事は世界中の注目を集めています。 ゴールデンステートは再び炎に包まれ、近隣地域は壊滅的な被害を受け、40,000エーカー以上の土地が灰と瓦礫と化しました。多くの命が失われ、人々は行方不明となり、コミュニティは移転を余儀なくされ、生態系は壊滅的な打撃を受けました。これは、米国史上でも最悪の自然災害のひとつです。復旧と復興への道のりは長いでしょう。今回の山火事は、通常の山火事のシーズンを大きく外れた時期に発生しました。気候変動によって悪化した異常気象、サンタアナ風(注)、長期にわたる干ばつが重なり、火災を助長する結果となりました。しかし、トランプ大統領やその支持者、右派系のメディア機関は、気候変動の影響をあからさまに無視し、その代わりに都合の良い、あるいは誤った、あるいは全く奇妙な主張を広めています。それらの主張とは、水の管理の不手際、消防予算の削減、多様性および包括性プログラム、魚類資源の保護などを非難するものです。しかし、これらの主張は、山火事に関する明白な科学的根拠を示すものから目をそらす無益なものです。

気候変動と土地の不適切な管理は、山火事をより頻繁に、激しく、破壊的なものにする形で環境条件を変えてしまいます。気温の上昇、乾燥化、より不安定な気象現象は、すべてその要因となります。また、たまに発生する大規模な山火事は、気候変動を促進し、大量の温室効果ガスを放出することになり、その結果、将来の山火事の頻度と激しさを増幅させることになります。 2024年の『Lancet Countdown on health and climate change』の報告書によると、「人類が非常に高い、または極めて高い火災危険にさらされる平均日数は、2003年から2007年から2019年から2023年の間に、124カ国(66%)で増加した」と報告されています。気候変動が深刻化し、山火事のリスクが高まる中、人々を被害から守るためには、山火事の抑制と、山火事の発生しやすい環境の生態学的に健全な管理が不可欠です。

山火事は世界的な健康問題として大きな懸念事項となっています。山火事の煙に含まれる粒子状物質やオゾンは命にかかわるものです。2000年から2019年の間に、景観火災(山火事および人為的な火災の両方を含む)による大気汚染に関連して、年間約150万人が死亡したという調査結果が世界規模で発表されました。この研究では、大気汚染に関連する心血管疾患による死亡者数が増加しており、年間約45万人が死亡していることが判明しました。また、呼吸器疾患による死亡者数は20万人に上ります。さらに、山火事の煙に曝露された後に、糖尿病のコントロール不良、腎臓疾患、神経疾患などの悪影響が現れるという証拠も出てきています。また、自然災害そのものによる直接的な身体的・精神的な被害に加え、避難や生計手段の喪失、日常生活の混乱による精神的な負担は甚大で、長期にわたるものです。

カリフォルニア州が注目を集めていますが、山火事による被害のほとんどは、低・中所得国(LMIC)で発生しています。LMICの発生する気候変動への影響は最も少ないながら、同時に受ける影響への支援もほとんど受けていない地域です。景観火災による汚染が原因で発生する死亡事故の90%以上は、LMICs、特にサハラ以南のアフリカ(年間606,769人)、東南アジア(206,817人)、南アジア(170,762人)、東アジア(147,291人)で発生していると推定されています。 その負担は、救助隊員、高齢者、子供、ホームレスなど、弱い立場にある人々に偏る影響を与えています。これらの被害は、もっと広く認識され、注目されるべきなのです。

カリフォルニア州は都市部でこれほど大規模な山火事が発生することに対して、まったく準備ができていませんでした。 間違った都市開発や山火事多発地帯での住宅再建といった他の要因も、この悲劇の一因なのです。 火災発生地域や避難区域の近くにある医療施設は、混乱や閉鎖に見舞われ、救急サービスや日常的な医療提供に大きな負担がかかっています。The Lancet Planetary Health誌のレビューでは、不十分な訓練、専門分野の縦割り構造の継続、不十分な資金調達、市町村、地域、国、国際レベルでの保健システムと管理体制間の不十分な連携が、深刻な山火事のリスクに対する効果的な準備と対応を妨げていると指摘しています。著者らは、保健システムが気候変動に耐え得るように、現在および将来の人口の健康状態を最適化できるよう、有益な指針を提示しています。

気候変動による山火事のリスクの増大、および、身体的・精神的健康、社会福祉、経済および環境への影響については、そのデータの語るところは明白です。しかし、科学だけでは限界があります。政治家は、地球規模での気候緩和と適応への取り組みを支持し、この証拠に基づいて行動しなければなりません。カリフォルニアの山火事は、政治家たちに現実を直視させることになるのでしょうか。目を背けても、無視できない被害と破壊はますます拡大していく一方です。

注)アメリカのカリフォルニア州南部で、秋から冬にかけて、内陸の砂漠地帯から太平洋岸に向けて強く吹く高温で乾燥した熱風。名前は、ロサンゼルス郊外のサンタアナ峡谷を吹き抜けることに由来する。

Wildfires: what does the evidence say? - The Lancet

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