健康と慈善活動:過去、現在そして未来

2月4日に88歳で亡くなった億万長者の実業家、アガ・カーン4世は、世界中の大学、病院、学校に資金援助を行っていたにもかかわらず、慈善家という肩書きを拒み続けていました。アガ・カーン開発ネットワークを通じて、何百万人もの人々の生活改善に貢献したことは疑いのないアガ・カーン4世は、イスマーイール派イスラム教の精神的指導者としての役割のひとつとして、自身の富を分かち合うことを考えていました。確かに、文字通り訳せば「人類愛」というべき慈善活動の定義を十分に満たすだけのことをしてきたのです。

民間の慈善家や慈善団体は、健康の改善や、教育、環境、市民権の促進など、他の分野においても建設的な変化をもたらす長い活動歴史を刻んできました。1913年にスタンダード石油の王、ジョン・D・ロックフェラーによって設立されたロックフェラー財団は、国際的な慈善活動の台頭を象徴する存在でした。WHOの活動とも密接に連携し、鉤虫症、マラリア、黄熱病の撲滅キャンペーンを実施した同財団は、ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院やハーバード大学公衆衛生大学院を設立しました。

最近では、ビル・ゲイツ氏を代表とするテクノロジー業界の大富豪の登場により、個人による慈善活動も進化しています。ビル・ゲイツ氏は、当時妻であったメリンダ氏とともに、25年前にビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立しました。それ以来、同財団は世界の保健の多くの分野において中心的な役割を果たしてきました。20種類の感染症に対するワクチン接種プログラムを通じて何世代もの子供たちを守ってきた実績を持つGavi、ワクチン同盟のような組織への支援から、HIV/エイズ、結核、マラリア対策に費やされた数十億ドル、そして膨大な研究への資金提供(その多くはThe Lancet誌で発表されています)まで、その活動は多岐にわたります。慈善団体には多くの強みがあります。独立して活動でき、自由に発言でき、公的資金にありがちな官僚主義や目先の成果を求める姿勢にとらわれることもありません。また、非常に大きな結集力を持ち、通常であれば耳を傾けてもらえないような声にも耳を傾けるプラットフォームを提供することができます。


慈善活動と世界の健康に関しては別の意見もあります。慈善家たちに独自の議題を設定させることは、どのプロジェクトに資金が提供されるかに関して、偏見や贔屓を生み出すというものです。意思決定は、透明性や説明責任を欠いたまま、非公開で行われることが多いというものです。多くの慈善家は、不相応で不当な権力を振りかざし、今では支援を提案している他者の搾取によって富を築いてきたというものです。慈善活動は、不平等を緩和するためのシステムとして自らを提示していますが、根本的には不平等の上に成り立っているというものです。この見解は、重要な疑問を提起します。健康のための慈善活動の影響を誤りなく評価することは可能でしょうか? また、誰がそれを評価するのでしょうか? 意思決定はどのように行われ、組織はどのように説明責任を果たすのでしょうか? 国際的な慈善活動は、公的支出をどれほど歪め、国家の責任を免除するのでしょうか? また、グローバルヘルスが脱植民地化される時代において、米国や欧州のほんの一握りの途方もなく裕福な人々が、世界の健康についてあれほどまでに指図することが正しいと言えるのでしょうか?


これらの問は目新しいものはありませんが、保健分野における慈善活動が今後も継続されることを考えると、これまで以上に差し迫った問題ではあります。近年、各国政府が世界保健プログラムへの資金提供に消極的になる傾向が強まっているため、不足分を補うために、慈善活動を含む民間機関に目を向ける組織が増えています。世界エイズ・結核・マラリア対策基金は、次の資金調達ラウンドに向けて、企業、慈善団体のリーダー、財団から20億米ドルの拠出を求めています。これは、前回の資金調達ラウンドと比較して50%の増加となります。世界保健機関(WHO)とそのパートナーへの慈善寄付を募ることを目的として、2020年にWHO財団が設立されました。今号のワールドレポートでも報告されているように、米国の脱退によりWHOは大幅な資金不足に直面しており、多くの国がその穴埋めを渋っています。


慈善活動が不要な世界は理想かもしれませんが、私たちは理想とはほど遠い世界に生きています。2024年には、1週間に約4人が億万長者になりました。そのお金を社会や健康のために役立てたいと心から願う人も多いでしょう。ウォーレン・バフェット氏、ビル・ゲイツ氏、メリンダ・フレンチ・ゲイツ氏によって設立された「ギビング・プレッジ」は、個人の資産の大半を社会の最も差し迫った問題の解決に役立てるという誓約です。署名者の数は、2010年の当初の40名から、現在では30カ国から240名以上にまで増加しています。彼らは「遺産、ガバナンス、寄付に家族を関与させるためのアプローチについて話し合う」ことを約束しています。これらの話し合いは、倫理的な責任ある実践へと移されなければなりません。

原文記事:Philanthropy for health: past, present, and future - The Lancet

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