生態学的な公平性とワンヘルス

人が健康であるためには住む土地がよくなければならないという考え方は、先住民社会で長い歴史を持っています。現在では、ワンヘルス(One Health)という言葉は、世界の健康問題を考えるときに重要な概念となっています。それは、人間、家畜、野生動物、植物、そしてより広い環境(生態系を含む)の健康が、密接に関連し、相互依存していることを認識するものです。ワンヘルスは新興感染症や新型病原体に限らず、抗菌剤耐性、食料・栄養不安、気候変動など最も重要な脅威を理解し対処するための基礎となるものです。

現代の考え方は極端な人間中心主義的であり、人間が医療の対象と関心の中心であると考えられています。しかし、「ワンヘルス」は、人間を、人間以外の動物や環境と相互に関連し、依存し合う関係として捉えます。この考え方は、非常に革新的な視点の転換を伴うものです。この理解は、人間と動物、環境との挟間に存在する差し迫った健康問題に取り組むための基本です。

増え続ける世界人口に、持続可能な食糧システムによる健康的な食生活を提供することは、動物との関係を完全に変える必要があります。EAT-Lancet委員会は、人々が動物性の食事から植物由来の食事に移行することを推奨しています。これは、人間の健康だけでなく、動物の健康や福祉にも恩恵をもたらします。

COVID-19パンデミック管理の分析では、保健制度とワクチンと抗ウイルス剤の供給問題が優先事項でありました。しかし、パンデミックの原因を理解するには、より広範な生態学的な視点が必要です。この教訓が十分に生かされていないため、私たちは今後も致命的な新興感染症の影響を受けやすくなっています。One Healthの考え方のひとつに、環境に対する人間の圧力を減らすということがあります。抗菌剤耐性(AMR)。人、動物、環境の各分野における抗菌薬の使用と誤用を例にとってみますと、世界的に膨大な死亡者が生じています。2019年には、抗生物質耐性細菌感染症により推定100~200万人が死亡し、さらに世界的に細菌性AMRに関連した400~9500万人が死亡していると言われています。ワンヘルスアプローチを適用することによってのみ、AMRに対処する行動を達成することができます。

大きな懸念は、ワンヘルスのネットワークが主に高所得国に限られ、資源が不足しているため、不平等が進展する危険性があることです。平等主義的なアプローチが必要であり、低所得国や中所得国に何をすべきかを教える家父長的な姿勢でも植民地主義でもない取り組みです。例えば、新興の人獣共通感染症を食い止めるために生き物を売る市場を閉鎖するよう要求することは技術的には正しいかもしれませんが、もしそのような市場で生計を立てている人々のことを考慮しなければ、「ワンヘルス」が配慮すべきとする人々の生活を悪化させてしまうでしょう。植民地主義的な姿勢から脱するには、各国の言い分とその要求に耳を傾けることが必要です。ワンヘルスは、多国間組織間の協定によってではなく、自然に対する根本的に異なるアプローチ、つまり、人間と同様に人間以外の動物や環境の福祉に関心を持ち、それぞれの国で実施されるのが現実的です。真の意味で、ワンヘルスは、単に健康だけでなく、生態学的公平性が求められているのです。

原文記事:One Health: a call for ecological equity - The Lancet

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