経済の嵐と健康の危機

世界銀行のチーフエコノミストの言うことに耳を傾けている人はいるでしょうか?多くの国が「危機への道を歩んでいる」とインダーミット・ギル氏は言います。最貧国は「罠にはまり込んで」おり、「多くの世界的優先事項の進展を阻害」する恐れがあります。「大きく軌道修正をしなければ、2020年代は機会を無駄にした10年として語り継がれるでしょう」。ギル氏の大きな懸念は、世界銀行の一連の報告書に概説されているように、多くの低・中所得国(LMICs)は高騰する金利によって悪化した、麻痺するほどの多額の債務に直面しています。政府は債務返済に苦しみ、医療や教育などの公共サービスへの支出は削減される危険性が高まっています。ギル氏の発言は、世界の保健医療が将来待ち受ける困難についての悲痛な警告です。各国はどう対応すべきでしょうか?

まず、問題の大きさを理解する必要があります。統計は厳しい状況を示しています。多くのLMICsで債務が増加し、経済成長を上回っているのです。グローバル開発センターによれば、LMICs政府は2020年に国内総生産の2〜21%を保健医療に支出していました。最貧国の多くが依存する保健分野への開発援助は、COVID-19期間中に過去最高の水準に達し、2021年と2022年には推定370億~380億米ドルに達しました。しかし、世界銀行によると、LMICsは2022年だけで4,430〜50億ドルの債務返済を記録しました。債務返済額は2023年から24年にかけて10%増加し、低所得国では40%近く増加すると予測されています。最貧困層が最も大きな打撃を受けているのです。

第二に、公共部門の支出を広範囲に削減することは、道徳的及び経済的理由から、悲惨な誤であることを理解しなければなりません。保健医療への投資は、人々への投資であり、発展、繁栄、社会の回復力と安全保障への投資でもあります。世界経済フォーラムで発表された報告書によれば、女性の健康格差に対処することで、2040年までに世界経済を少なくとも年間1兆ドル押し上げることができると結論されています。今日では、財務大臣は健康を軽視している時ではないのです。

第三に、緊縮財政という新時代がもたらす健康危機は、保健プログラムにとどまらないことを認識する必要があります。Terje Eikemo氏らが今週のLancet Public Health誌で報告しているように、健康は教育に密接に依存しています。教育を受けた量は、全死因死亡率と用量反応関係を示しています。教育を1年受けるごとに死亡リスクは平均1-9%減少し、若年層では2-9%も減少しています。著者らは、この研究は「死亡率から見て世界的な不平等を是正するための重要な道筋として、教育への投資拡大を求める声を支持するものである」と結論しています。公共部門の予算を削減するのではなく、健康を守り増進させる幅広い社会プログラムへの投資を増やすべき時なのです。

しかし、多くの国の予算は限りあり、債権者は返済を迫ってきています。他に何ができるでしょうか?公共部門の支出を強化できる国内対策はあります。ワールド・レポートで報告されているように、タンザニアでは、国民皆保険の計画の財源を賄うために、累進課税、課税ベースの拡大、清涼飲料水、アルコール、タバコへの課税の導入など、さまざまな選択肢があります。しかし、財政が逼迫している国のほとんどは、社会的保護が損なわれるような引き締め政策に走っています。世界銀行の国際開発協会から借り入れ資格を持つ11カ国が債務危機に陥り、さらに28カ国が高リスクとなっています。デフォルト(債務不履行)の危機にある国に対しては、国際機関による救済措置は厳しい緊縮財政の条件が課されることは良く知られています。経済成長によって、貧困の緩和や開発の支援はもちろん、債務リスクを軽減することができます。しかし、政府は積極的な経済成長計画と、地球と人間の健康を支える自然システムに対するダメージのバランスをどのように取ればよいのでしょうか。健康についての領域では、この緊張関係についてまだ完全な解決策が出ていません。

国際的な対応としてはっきりしていることは債務救済です。ブリッジタウン・イニシアティブは、バルバドスのミア・モトリー首相による国際金融システム改革の提案によるものです。モトリーは、各国に即時流動性支援、低金利での債務再編、開発融資の大幅増額、民間セクターによるグリーン投資を推奨しています。彼女はまた、より代表的で公平な金融ガバナンスと、より公正な貿易システムを求めています。彼女のアイデアは、今年9月の未来サミットと来年の開発金融会議に反映されるでしょう。しかし、各国が直面している深刻な脅威は、この歩行者が行くがごときのスケジュールを待つことはできません。戦争や目前に迫った選挙が多くの世界の指導者の関心をそらしており、行動の見通しは明るくありません。しかし、各国は国民に投資する必要があり、そのためには債務救済が必要となっています。ギルの警告を無視すれば、人類に壊滅的な結果をもたらす危険が迫っています。

原文記事:Economic storms threaten to cast health adrift - The Lancet

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