インドの台頭とリーダーシップ
国連の推計によると、インドは中国を抜いて世界で最も人口の多い国となりました。また、インドネシアに代わってG20の議長国を務め、9月に開催されるニューデリー首脳会議は、南アジアで初めて開催されることになります。インドは「南半球の声を拡大する」と言い、G20の目標もそれを反映しています。しかし、ナレンドラ・モディ政権が掲げる政治的ナショナリズム、多国間主義への抵抗、そして国内の多くの差し迫った課題が、こうした目標の実現を脅かしています。
インドは間違いなく強みを持っています。人口は強力に増加しています。中国の人口が減少しているのに対し、インドの人口は増え続けると予測されています。経済規模は世界第5位で成長中です。人口増大の恩恵を得るでしょう。その恩恵、特に健康面の恩恵を実現するためには、富、教育、性と生殖の健康、女性の活用における地域間格差の深刻化に対処するため、健康、教育、知識と能力への投資が必要となります。
インドの G20 における優先事項は、包括的で弾力的な成長を基盤としています。それらは、気候変動資金、世界の食料安全保障の確保、SDGsの加速、ワクチン、治療薬、診断薬へのアクセス、グローバルな金融システム統治の民主化、グローバルで弾力性のある保健医療の構築、健康のデジタル化の改革の普及が含まれます。また、インドは低・中所得国(LMICs)に対する債務救済を強く求めています。債務返済に充てられる公的支出の割合が世界的に急増しているため、必要とされる保健・社会プログラムへの投資が妨げられることになります。LMICsの立場を考慮した国際的な債務条件の再構築は、福祉と幸福の実現にとって不可欠なものです。
インドは、医薬品の普及において、すでにグローバルなリーダーシップを発揮しています。南アフリカと並んで、COVID-19の大流行時に知的財産権の放棄を提案した最初の国の1つです。大規模となったインドのジェネリック医薬品製造産業は、HIVの抗レトロウイルス薬の約3分の2を含む低価格の医薬品を世界の多くの国々に輸出していますが、汚染された医薬品による一連の死亡事故によって、薬事規制に対する疑問が生じています。インドの新しいデジタル保健医療計画「アユシュマン・バラット・デジタル・ミッション」は他国のモデルとなる可能性があり、南-南協力をどのように強化できるかを示しています。
インドは温室効果ガスのインフラ整備にそれなりの熱意を示していますが、COP26で石炭に関する文言を弱めたことは懐疑的な見方を生みました。医療部門が低水準であることや一人当たりの排出量が少ないにもかかわらず、インドは世界第3位のCO2排出国であることに変わりはありません。昨年は、壊滅的な熱波が大被害をもたらし、インドは記録上最も暑い3月を記録しました。正味のゼロ排出に向けた明確な道筋を示すこと、そしてそれを裏付けるデータを持つことは避けては通れないのです。
COVID-19の健康データに関して、政権自らがまったく信用できないことを示しました。政府の公式発表では、死亡者数は53万人以上とされていますが、WHOの2020年と2021年の超過死亡予測は400万~700万人に近い数字となっています。2014年にモディが政権に就いて以来、インドにおける報道の自由は低下しています。国境なき記者団の報道の自由度指数の180カ国のうち、インドは150位で、ロシアよりわずか5位ほど上にすぎません。市民社会はますます制約を受け、暴力的なヒンドゥー民族主義が非ヒンドゥー教徒の声を抑圧しています。
結局のところ、グローバルな舞台でどの国もリーダーシップを発揮できるかどうかは、その国の正当性にかかっています。モディ政権は、透明性、誠実さ、公平さという一連の公約を示すことができませんでした。その結果、インドはその途方もない機会を無為なものとする賭けをしています。
原文記事:India's ascendancy: leadership demands integrity - The Lancet