COVID-19の緊急事態を乗り越えて

米国ではCOVID-19の緊急事態が終了します。5月11日、米国の公衆衛生緊急事態宣言が期限を迎えます。その結果、COVID-19への対応を支援する規定が終了しつつあります。こうした変化には象徴的な重要性もあります。緊急事態が終わると言うことは米国の歴史上、最悪の健康災害の1つの分岐点となる瞬間であるからです。いま何が起きようとしているのでしょうか?

COVID-19ワクチンは少なくとも2024年9月30日まではおそらくカバーされますが、COVID-19の治療と検査は健康保険に基づいて自己負担が必要になるかもしれません。メディケイドの決定は各州に委ねられており、州によってはすでにコロナ以前に戻す動きが始まっており、新たに1500万人の保険未加入者または無保険者が発生すると推定されています。政府は次世代のCOVID-19ワクチンや治療法の開発を加速させるために、50億ドルを投じる「プロジェクト・ネクスト・ジェン」によって、新しい医療技術を進歩させたいと考えています。

過去の失敗を検討することも必要です。グローバル・ヘルス・セキュリティ・インデックスでは、パンデミックへの対応能力で第1位にランクされている世界で最も豊かな国が、なぜCOVID-19で100万人以上が死亡し、一人当たりの死亡率が世界で最も高い国の1つなのでしょうか。まず、COVID-19によって、この国の底流にある健康格差が顕わになりました。黒人やヒスパニック系アメリカ人の割合が高く、貧困率が高く、教育水準が低く、良質な健康保険の普及が少ない米国の州では、COVID-19による死亡率が上昇しました。これは、社会的・経済的格差を背景に、ウイルス感染と非伝染性疾患との相互作用というCOVID-19のシデミック(注:特定の状況で発生し、共通の推進力を持つ相乗的相互作用のある伝染病)な性質を物語っています。米国では、人口の健康状態が不公平で変動しやすく、非伝染性疾患のレベルが高く、国民皆保険制度がないため、影響を受けやすいのです。

トランプ政権は、確たるデータに基づく意思決定を軽視していたため、パンデミックへの対応ができませんでした。議会では党派性が強く、CARES法などの必要なCOVID-19救済策がしばしば停滞し、不公平感を増大させることになりました。マスクなど対策についての過熱した論争は、公衆衛生政策と政治的所属を混同させることになりました。現CDC長官のロシェル・ワレンスキー氏は、CDCは「検査からデータ、コミュニケーションに至るまで、いくつかの重要な、そしてかなり多くの公的なミスに責任があった」と述べ、その結果、CDCを改革すると約束したのです。世論調査では、パンデミックの過程でCDCに対する信頼が低下していることが示されており、この信頼を回復することが不可欠です。ホワイトハウスにパンデミック対策・対応政策室が新設されたことで、将来の健康上の緊急事態における権限がさらに細分化される恐れがあります。

ワープスピード作戦は、記録的な速さで革新的なCOVID-19ワクチンと治療法を生み出しましたが、CDCはパンデミックの期間、一部の地域でCOVID-19ワクチンの接種をためらう人が25%以上いたと推定しています。ワクチンの偽・誤情報があふれ、2020年の選挙中の政治的帰属はCOVID-19ワクチン接種率の低下と相関していました。低いワクチン摂取率は、人種差別や人種差別主義者による構造的障壁とも関連しています。COVID-19ワクチンについては、米国の公衆衛生上のプロモーションは明らかに不十分でした。この国は保健衛生上の緊急事態への対応に特徴があり、パニックと無視のサイクルに陥る危険性があるようです。しかし、COVID-19が米国でもたらした被害の根本原因である健康格差、医療の不十分な普及、非伝染性疾患、有害な政治的言説、公衆衛生機関に対する不信感を直視しない限り、次のパンデミックが起こったときに歴史が繰り返される可能性は高いのです。

原文記事:Moving past the COVID-19 emergency in the USA - The Lancet

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