HIVパンデミックの終息:未来への準備
先月、オーストラリアのブリスベンで開催された国際エイズ会議を前に、ローラ・N・ブロイルズらが『ランセット』誌に発表した画期的な研究で、HIV感染者のウイルス量が検出可能なレベルであっても低値(1mLあたり1000コピー以下)を維持している人は、性的パートナーを感染させるリスクがほぼゼロであることが報告されました。これは驚くべき結果であり、検出不能イコール感染不能(U=U)HIVキャンペーンに説得力を与える有力なデータとなります。U=Uとは、抗レトロウイルス療法の継続によってウイルス量が検出限界以下の状態を維持しているHIV感染者は、性行為によってウイルスを他人に感染させることがないという意味です。
低ウイルス量になれば感染がないことを立証することは、HIVの予防と管理にとって広範な意味もち、手頃な価格のウイルス量検査を広く普及させ、HIVに対する社会的烙印の防止を促します。この知見や、HIV曝露後予防薬の登場から長時間作用型の注射治療薬の開発まで、HIVにおける最近の科学的進歩に期待が高まるのも当然のことです。持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までに公衆衛生の脅威であるHIV/AIDSを終息させることを目標としており、国連は、2030年までにHIVの新規感染とAIDS関連死を2010年比で90%削減することを公の目標としています。この野心的な目標を達成する新規の方法はもちろん歓迎されます。しかし、これまで何度も示されているように、医療技術だけではHIVの大流行を終わらせることはできません。
The Lancet HIV誌に寄稿したVincent Guilamo-Ramos氏らは、米国におけるEnding the HIV Epidemicイニシアチブは目標を達成できそうにないと論じています。2019年に開始されたこのイニシアチブは、2030年までに年間のHIV新規感染を3000人未満に減らすことを目標としています。しかし、2021年の新規感染者数は32,100人と推定されており、目標達成にはまだ相当の努力が必要なのです。Guilamo-Ramos氏らは、前進を妨げている不公平に対処する4つの優先事項を挙げています:社会的差別の解消、HIV感染者を雇用すること、健康に関する有害な社会的決定要因の緩和、米国における健康への再投資と再開。これらの優先事項は米国だけでなく、世界のHIVに共通するものです。
米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は、世界的なHIV/AIDS援助の主要な資金提供源です。2023年の予算は60.9億ドルで、そのうち40.8億ドルが二国間のHIV対策に、残りがUNAIDSと世界エイズ・結核・マラリア対策基金に充てられます。この資金は20年間で、世界的なHIVへの対応を一変させてきました。しかし現在、その資金が継続更新されないという前代未聞の危機に直面しています。議会の共和党は彼らが主張する中絶サービスを制限する、禁止を原則とする規制が導入されない限り、PEPFARの再承認をしないと脅しています。PEPFARは長期に亘り、米国政治が分裂するなかで超党派の政治的成功を収めてきました。PEPFARを失うことは、米国が保健医療における世界のリーダー足ることへの非難であり、保健医療への大失態です。ルーシー・クルーヴァーらが『ランセット』誌で警告しているように、PEPFARが失われれば、間違いなく何百万人もの子どもたちが死亡し、孤児となり、苦しむことになるのです。
低所得国や中所得国におけるHIVに対する資金格差は拡大しており、これ以上の削減は状況を悪化させるでしょう。UNAIDSは、2022年には鍵を握る人々のための予防プログラムに対する資金ギャップが90%という驚異的な数字になると見積もっています。これらの人々は、男性と性交渉を持つ男性、セックスワーカー、トランスジェンダー、薬物を注射する人々、投獄されている人々、などの閉鎖的な環境で生きています。このような人々が予防と治療を受けられるようにすることが不可欠です。しかし、資金不足は、懲罰的な法的・社会的状況の継続と相まって、重要な医療サービスを阻む障壁を永続化させ、進歩に対する重大な脅威となっています。
目標の設定期限である2030年と、目標達成のために何ができるかについて、HIV感染者と世界の保健医療界は注目しています。今のところ、HIV/AIDSは、9月に開催されるパンデミックの予防、準備、対応、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、結核に関する3つの2023年国連ハイレベル会議の議題に含まれるはずです。しかし、国際エイズ学会・ランセット委員会が強調したように、HIVの世界的流行は終息に向かっておらず、予見できうる未来に亘って世界的な保健上の重要課題であり続ける可能性が高いのです。その深刻な影響は、SDGsが終わってもそれをはるかに超えていくでしょう。この万一の事態を想定した計画を立て、SDGs後の世界における優先事項としてHIVを含めることを重視するならば、今すぐ取り組みを開始しなければなりません。
原文記事:Ending the HIV pandemic: preparing for the future - The Lancet