ウクライナの健康の未来

ロシアによるウクライナへの全面侵攻から1000日以上が経過し、死、破壊、恐怖、避難、離別、飢餓、トラウマが続いています。 国連の推計によると、2024年には、ウクライナでは1460万人が水、食料、電気、暖房が不足し、人道支援を必要としています。特に戦闘が集中している地域では、医療システムが大きな混乱と被害を受けています。2022年2月以来、2176件の医療施設への攻撃が記録されています。しかし、保健医療従事者は勇敢さと決意によって、極めて厳しい状況下でも対応し、医療提供を継続してきました。 外部のドナーやパートナーは、保健医療システムの支援において不可欠な存在でしたが、その支援がいつまで継続されるのか、ということが大きな懸念になっています。 ウクライナと地域に対する深刻な脅威を考慮すると、短期的な対応に注目が集まります。 しかし中長期的な保健医療について、何を考慮すべきでしょうか。

紛争は必ず健康に長期的な影響を及ぼします。2022年、ウクライナ保健省の調査結果では、1500万人が心理的サポートを必要とし、回答者の90%が少なくとも1つのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を示し、さらに57%が発症のリスクがあると推定されました。オレーナ・ゼレンスカ財団の調査では、44%の子供にPTSDの兆候が見られることが示されました。非感染性疾患は、2022年のウクライナにおける早死の主な原因ですが、医療が受けられないことが大きな問題となっています。 心配なことに、3世帯に1世帯近くが医療ケアを先延ばしにしています。 慢性疾患を放置し治療しなければ、最終的には一層の多くの不必要な、あるいは予防可能な死につながります。 ウクライナは、特に外傷ケアやメンタルヘルスに関連する専門分野において、医療従事者の大幅な不足に直面しています。 これらは、同国が直面している深刻な健康上の課題です。

理想的には、ロシアは直ちに軍を撤退させるべきです。しかし、情勢は極めて不安定であり、先行きを予測するのは難しくなっています。一時的な停戦となるのか、それとも恒久的な平和が訪れるのか。ロシアはさらに進軍するのか、それとも消耗戦が長引くのか。一方、ウクライナはEU加盟に向けた交渉を開始していますが、EU加盟には公衆衛生、電子医療システム、医療教育、製薬部門などに関する数多くの条件が課せられています。したがって、保健計画の策定は難しく、柔軟性が求められます。

最近発表されたウクライナの精神衛生に関するLancet Psychiatry委員会は、国民の当面のニーズを満たすだけでなく、「回復に向けた取り組みと改革により、ウクライナ国民のニーズと国際基準を満たす保健・社会インフラを実現する」という将来を見据えた指針を提供しています。ウクライナの戦前の取り組みの上に、同国の古い治療および入院患者ケア中心の精神保健ケアモデルを、地域社会を基盤とした包括的で、生涯にわたるケアを提供するモデルへと変革し続けるためのロードマップを策定しています。このようなアプローチは、他の健康問題を考える上での青写真となりえります。ウクライナ政府が健康問題に真剣に取り組んでいることは、戦争による負担にもかかわらず、2025年の国家医療財政メカニズム「医療保障プログラム」への予算が、2024年の予算よりも増額される予定であることからも明らかです。

この地域の国々は、ウクライナ人の長期的な健康についても考えなければなりません。紛争が終結した場合、ウクライナは欧州諸国の支援を受けながら再建を進める必要があります。EUは米国に次いでウクライナへの支援額が2番目に多いドナーであり、これまでに約1240億ユーロを支援し、2027年までにはさらに500億ユーロの支援を保証しています。しかし、世界銀行は今後10年間で4400億ユーロの復興・再建費用が必要になると試算している。現在、欧州諸国には620万人のウクライナ難民が散在しており、国内避難民は370万人に上ります。EUにとって、移民問題はすでに大きな課題であり、ロシアがウクライナ領内にさらに侵攻すれば、さらに多くの人々が避難することになるでしょう。The Lancet Regional Health–Europe誌のシリーズ記事によると、ヨーロッパの医療制度は、移民の多様なニーズに、受け入れ国の住民と同じ水準のケアを提供できていません。ウクライナのヨーロッパ諸国近隣諸国は、移民に配慮した医療ケアの提供を改善する必要があります。

ウクライナの将来は不透明であり、同国の医療制度は大きな圧力にさらされています。紛争が長引くほど、健康への被害は拡大し、医療に対する外部からの支援が継続されることがより重要になります。しかし、どのようなことが起ころうとも、現在および将来の同国の医療を対応の中心に据えるための計画を立てる必要があります。

原文記事:Health in Ukraine amid great uncertainty - The Lancet

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