世界保健機関(WHO)の統治問題 

「その理由は、エチオピア北西部のティグライ州の人々の肌の色かもしれません」。

エチオピアでの紛争、アフリカの角 (注)での異常気象、ロシアのウクライナ侵攻による食糧、燃料、肥料の価格高騰など、「地球上で最悪の災害」を軽視する世界の指導者たちに、テドロスWHO事務局長は問題提起を行いました。世界が無関心であるのは人種差別であるという指摘は、政治と医療界の双方にとって考えてみる価値があります。

アフリカの角では、明らかに人道的な大惨事が起きています。エチオピア北部の大部分に拡大したティグライ内戦によって、これまでの保健衛生の成果が急速に損なわれています。国連は現在、少なくとも2,500万人のエチオピア人が人道的支援と保護を必要としており、そのうちの42%が子どもであると見積っています。妊娠中または授乳中の女性の半数、5歳未満の子どもの3人に1人が栄養失調に陥っています。女性や少女は生き延びるために性労働を強いられています。

テドロス氏のコメントは、WHO事務局長としての2期目が始まった翌日に出されたものです。彼の1期目は決して議論の余地がないものではありませんでしたが、COVID-19のパンデミックという前例のない課題に対応し、いくつかの成功も納めました。テドロス氏は2023年までに、10億人以上がより健康で幸福な生活を享受し、10億人以上が国民皆保険の恩恵を受け、10億人が健康上の緊急事態から保護されるようにすることを約束しています。しかし、2023年までに2億7千万人以上がユニバーサル・ヘルス・カバレッジの恩恵を受けると見込まれるものの、10億人の達成には大きく不足しています。

コンゴ民主共和国でのエボラ出血熱対策に従事していた職員が、現地の人々に対して性的搾取・虐待していたことが明らかになり、WHOの評判に厳しい汚点を残すことになりました。国際機関を敵視する政治家の目は厳しさを増しています。これらは、技術的な能力の問題でもありますが、組織統治の課題なのです。

テドロス氏のリーダーシップによって、事務局長への権力の集中が進んでいます。この戦略は、司令塔が必要な危機的状況では有利に働くかもしれません。しかし、リーダーシップが広範囲に亘りながら、その深みがないため、組織には欠点を残したままです。前事務局長は、強い個性を持ち、専門分野のリーダーとして、真の招集力を持つ人物を任命しました。WHOは知識と専門性が枯渇しているために、外部の専門家や経営コンサルタントに大きく依存しているのです。テドロス氏は、リーダーシップと責任を彼のチームのどの次元や領域に移管するべきか、について考えるのが賢明でしょう。

 (注):アフリカの角(アフリカのつの、英: Horn of Africa)は、アフリカ大陸東端のソマリア全域とエチオピアの一部などを占める半島。

 原文記事:Tedros: Tigray, the Triple Billion, and a second term - The Lancet

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