堀内剛志:第一回セゴビアギターコンクール優勝者

松村雅亘さんは私の5本目のギターを製作してくれた方である。彼はロベルト・ブーシェに師事して、ギター製作者として優れたギターを世に送り出されてきた。私はその松村さんにギターを発注し、出来上がるまでに3年待つこととなったが、その間に親しくお話を聴くチャンスが何度かあった。その中の一つが堀内氏にまつわる話であった。

松村さんは私に一本のカセットテープを渡してくれて、その場で堀内氏のコンクール優勝演奏(と松村さんから聞かされた曲)を聴かせてくれた(1981年優勝)。この録音はモノラルであり、恐らくはコンクールの現場に居合わせた聴衆の一人が録音したと思われる。堀内氏の使ったギターは松村さんの製作したギターであったというから、松村さん自身がコンクール最終演奏の観客の一人で、松村さん自身が録音したのかもしれない。

松村さんは堀内氏の演奏を絶賛したあと、彼にまつわる悲劇的な話を語ってくれた。要約すると、コンクールで優勝した後堀内氏はギターが弾けなくなってしまった。きっと精神的なものであったに違いない。彼は手の一部を自ら傷つけて二度とギターが弾けなくしてしまったという。当時の日本ギター界のレベルを考えれば、ギター国際コンクールで優勝するほどの若手演奏家が、その後の活躍ぶりを聞かず、大方のギター愛好家に十分知られることなく表舞台から姿を隠してしまったのは惜しんで余りあることであった。松村さんにとっても忸怩たる思いであったであろう、そのことを一介のアマチュアの私に話してくれたばかりか、録音テープまでいただいたのである。

身の回りにある古い音源を整理しているうちにこのテープを発見し、松村さんのことを思い出すと同時に、インターネットで堀内氏のことを改めて調べてみた。彼の才能を惜しみ、ここに彼の演奏を紹介する次第である。

(1) J.S.Bach : Prélude de la suite n°4 pour luth ~ Tsuyoshi Horiuchi (Segovia Competition 1981) - YouTube

(1) Tsuyoshi Horiuchi: live concert playing Bach, Tedesco, Britten and Sor - YouTube

堀内剛志さん の件 - fantasia25さんの日記 - fantasia.xyz

堀内剛志氏の貴重なリサイタル音源を発見 - 緑陽ギター日記 (goo.ne.jp)

第一回セゴビア国際コンクール 1981年 | mixiユーザー(id:37241312)の日記

松村雅亘先生が亡くなってから・・・ - tamatebako919 Jimdoページ (jimdofree.com)

PS:松村さん制作の私のギターには2006年の銘が入っている。松村さんがお亡くなりになる8年前の作品である。完成した発注作品を受け取るときに、私の歳を考え、「長く弾きこまなくても音が出るように作りました」と松村さんが言われたことを思い出します。合掌。

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