獣医による診断と治療

寄稿エッセイ(2) 鈴木良次 2022年9月19日

 前回我が家に転がり込んできた野良猫「ココ」が、獣医さんのおかげで18年も長生き出来たことを紹介した。

「ココ」が体調をくずしたことは家人が気付いたことではあるが、運び込んだ医院では、獣医さんが「ココ」の症状から歯槽膿漏と診断され、「ココ」は早速入院手術を受け、元気を取り戻して帰宅した。

痛みも訴えられない動物の病状を的確に診断できる獣医さんの力量に感服したが、患者である動物から、どのような情報を、どのようにして獣医さんは読み取っているのか。それは獣医学の課題であるが、知りたいものである。

私が大学で専攻したのは計測工学である。この分野での主流となる計測自動制御学会の機関誌「計測と制御」の最新号(2022年8月)の表紙に、気になるタイトルがあった。「獣医の目線から見た生体計測」と題する若い研究者の投稿である。彼女は獣医師から出発し、医学系や工学系の研究室で生命現象を生(ナマ)でとらえる映像技術(ライブイメージング)の開発に従事してきた、ユーザから開発者へと歩んできた人である。彼女は、人間は大昔から動物たちの恩恵を受けてきた。その恩返しのためにも、動物の身体の状態を読み取り、(良い治療につなげる)負担の少ない計測技術の開発を目指しているという。

「ものいわぬ動物たちのための計測」では、「ことば」を話す人間を対象とする場合とで、どのようなことが違うのか。違えなければならないのか。獣医としての目線から教えてほしいと思った。

何故、このことに興味があるかといえば、人間でも「ことば」によるコミュニケーションが十分に行えない患者さんもいるからである。そのような場合の患者の状態を的確に把握できる計測技術の開発が望まれる。

一方で、「ことば」を使えるというメリットを十分に生かすことも重要である。折角のこのメリットが使える状況でありながら、それを利用せず、計測技術に頼るということも問題だと思う。

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