楽器を手作りする

このページはギター演奏(赤い靴)をバックミュージックとしてお楽しみください。(ギターはいずれも手作り、先輩と私との二重奏)

日曜大工(その3:手作り楽器)                                       2022年11月 西部邦彦

 

1.手作りクラシックギター

 18歳の時、初めてクラシックギターを手にしてから、ずっとギターを愛用している。大学時代はギタークラブに所属、当時のギター仲間とは今でも交流がある。クラブの先輩の中に、ギターを手作りした人がいた。この話に触発され、日曜大工を趣味とする私も(少し小型の)ギターを作って見ることとした。とは言え、近くにギター工房は無い。そこで、先輩からギター作りの教則本を借用、時々アドバイスを受けながら、見様見真似で作り始めた。材料の一部と塗装剤を先輩から譲り受け、不足材料:表面板(スプルース)・糸巻き・接着剤(タイトボンド)などをネットで購入、準備した。

  日曜大工の楽しさの一つは構想を練り、効率良く作るための治具設計・製作の過程にもある。治具作りには、実際に作品を作る以上の時間がかかる。ギター作りでは特に側板を曲げるための型作りが必須、板曲げも時間のかかる作業であった。板曲げは、水に浸した板を、型に合わせて熱と力で徐々に曲げていく工程となる。板曲げには(写真01:ベンディングアイロン)が必要で、市販されている。しかし、高価なので、これも自分で手作りした。不要となった電気ストーブを分解。中からセラミックヒータを取り出し、アルミパイプ(購入)の中に装着。アルミパイプは当然熱くなるが、固定している箱に熱が伝わらないよう、6本のねじ釘の先端で点接触、固定した。温度コントロールは電源のON/OFFで行った。

写真1 ベンディングアイロン

写真1 ベンディングアイロンとは熱をかけながら木材を曲げていく道具

写真02:ギター製作は組み立て工程の一枚、裏板装着前の、側板補強材(ライニング)接着中の様子。100均洗濯ばさみを多用した。

写真2 ギターの内部です ギター背面から内部を見る

 サウンドホール周りの装飾用モザイクは、市販されているが、これも手作りした。薄い色、濃い色、色とりどり(水色はプラスティック)、約1mm角の細長い角棒(マッチ棒のようなもの)を多数用意、型にはめ込み、加圧接着固定(寄木細工)。それをギターにはめ込み、スライスカットしながら全体一周させた(写真03:手作りモザイク)。

写真3 サウンドホール周辺の装飾はギターという楽器のお洒落なのです

各フレット押弦時の音ずれを防止するには、ブリッジの位置調整が非常に重要。弦長(ナットから、ブリッジまでの距離)は、12フレットまでの距離の2倍よりも、わずか長めとなる。そのわずかとは弦長、弦高によっても異なるので一概には決められない。そこで、小ねじを用いたブリッジ位置調整治具を作り、ブリッジの最適位置を決めた。その結果に基づき、ブリッジを表面板にしっかりと固定した。

 完成したギターの大きさ、形状に合わせ、ケースも手作り。いずれも初挑戦であったが、素朴な音色が非常に気に入っており、何回か人前で演奏する機会も得られた(写真04:小型ギターとケース)。

写真4 ついに完成 我ながらよくできました

2.ウクレレ

 話は前後する。ギターを作りながら、ノウハウを積むことも兼ねて、同時並行でウクレレも製作した。ウクレレが完成、いざ弦を装着。張り始めたところ、ブリッジがメキメキ音を立てて外れてしまった。ウクレレの場合、一本の弦に約5kgの力がかかる。弦は4本なので、その4倍の力がかかることになる。ブリッジの取り付け補強を行い、何とか完成させた。

ギターの場合、一本の弦に約7kg前後の力がかかる。6本なので、6倍の力がかかる。ウクレレでの失敗の経験をギター作りに活かすことができたのは、大きな収穫であった。完成したウクレレの大きさ、形状に合わせ、ケースも手作り。人前で演奏する機会に合わせ、ウクレレスタンドも自作した(写真05:ウクレレとケース)。完成した小型ギターと、ウクレレは生涯の宝物となりそうだ。

写真6 誰が何と言おうと私の生涯の宝物です

3.ヘルマンハープ

 ギター完成後、モザイクの素材が余ったので、何かに使えないかと考えていた。その時、先輩からヘルマンハープの紹介を受けた。ヘルマンハープは、楽譜が読めない人でも、簡単に弾ける撥弦楽器の一種。このサウンドホールに余ったモザイクを適用しようと考えた。早速、ネットでヘルマンハープの情報を集め、設計、製作にとりかかった。

音域はギターと同じ、低音のミから高音のミまで3オクターブ、合計22弦とした。弦数が多いので、強度が心配だった。そこで、枠体には大き目の柱を使用した。結果、全ての弦を張っても、特にミシミシ音を立てるようなことは無かった。

糸巻は購入すると数が多いので、出費がかさむ。そこで、知恵を働かせ、M6のボルトと、木のブロックの組み合わせで調弦する方法を思い付き、適用した。ボルトを締めると、ブロックが手前に移動し、弦張力の微調整ができる(図面06:ヘルマンハープ設計説明図)。なお、22本の弦は仲間から寄付していただき、使用した。

写真6 設計図は思いを形にしたもの

表面板は不要となったタンスの表板を使用したので、購入品はボルトナットのみ。余り音色は良くないが、しかし、ヘルマンハープも宝物の一つである(写真07:ヘルマンハープ)。

写真7 ヘルマンハープの完成

4.楽譜ページめくり装置

 楽譜は一枚ものから、ページ数が多いものまで多種多様ある。ページ数が多い場合、数ページ毎にフェルマータなどの小休止を設け、奏者はその間にページめくりができる。しかし、時々ページめくりの機会の無い、長い楽譜はどうするか?この時のためにと知恵を働かせ、めくり装置を開発することとした。ネットを見ると、モータを使っためくり装置も市販されている。また、タッチパネル式のタブレット端末などが手軽に利用できる時代になった。この中に楽譜を入れておき、手、または足ペダルのワンタッチでめくることが可能なようで、演奏会でみかけたことがある。

 しかし、日曜大工の経験を活かし、あくまで木工にこだわって開発することとした。開発に当たっては、楽譜のどこをつまんで、どのような角度・方向に引けば良いかを、何度も試行錯誤し、最適位置を決めた。基本A4サイズの楽譜の偶数ページ毎にめくる装置とした。めくりたい瞬間に、右足でペダルを踏むと、ひもが①、②、③、④の順に引っ張られ、楽譜の端をつまみ上げる。めくられた後、ペダルはゆっくり離す。ペダルの着地時、不要なノイズ軽減のため、着地部にはコイルバネを設けた。ペダルは4本設けたので、最大で10ページの楽譜を連続してめくることができる(写真08:楽譜めくり装置、写真09:めくる瞬間、ひもは映らないので、水色で描画)。

 この装置を利用する場合、事前に楽譜を(小冊子のように)綴る必要がある。また、大きな欠点は後戻りできないことにある。したがって、小節の繰り返しや、ダカーポがある場合は、楽譜をコピーして、後戻りが必要無いよう事前に工夫がいる。

(動画:楽譜めくり装置)も参照いただきたい。また、代案を思いついた方は教えていただきたい。

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