200年目のランセット:新たなスタート地点からさらなる前進へ

1823年、27歳の薬屋、外科医、時にはボクサーでもあったトーマス・ワクリーは、The Lancetを創刊しました、ロンドンの有力な医師や外科医の小さな同好の士が高い利益を得ていたロンドン市立病院の講演会のレポートを出版することを目的としたものでした。医学知識の私的独占を解消することに加え、重要な臨床例を「正しく説明する」こと、つまり「その時代の文献の完全なクロニクル」を提供することも目的としていました。

 

読者層は国内(市井の医師たち)、国外(植民地の開業医たち:私たちが責任を負うべきグループでもある)でした。しかしWakleyのLancetは単に雑誌というだけではありません。それは、思想でもあったのです。Wakleyは、「利害関係のある人たちからの反駁」に直面することが分かっていたので、ランセット誌が医学界の腐敗を断ち切る道具になるとみていました(だからこの雑誌の名前は一風変わっています)。21世紀の医学は大きく変わっているように見えるかもしれません。しかし、19世紀の医療現場には、権力や医療資源の不均衡があり、質の高い医療の恩恵を誰でもが享受できる状況ではなく、依然として深刻な不公正が存在していました。Lancetは単なる記録を目的とした科学雑誌ではないはずだというWakleyのアイデアは、今日でも私たちの心を躍動させるものです。

 

私たちは、学術的な医学界が社会の進歩に貢献しながらも、無視されてきたと考えています。私たちは、優れて素晴らしいパートナーとの関係を通じて、私たちが出版する科学雑誌が、健康と健康の公平性の向上を加速させる手段となることを信じています。医学と医学研究は、科学的な活動であると同時に政治的な活動なのです。私たちは、私たちの独立性を大切にするとともに、手術や消毒の出現からスタチンやコロナウイルスワクチンの発見まで、多くの極めて重要な医学の進歩に立ち会ってきた特別な立場を自覚する一方で、ランセットが時として、痛ましいほどの人権侵害に加担してきたことも認識しています。植民地主義の遺産が、私たちの歴史の中で大きくクローズアップされていることは当然なことです。来年は、私どもの医学への貢献を振り返るだけでなく、帝国主義の拡大期における本誌の役割について、学者を招いて検証する予定です。

 

2023年は、私たちの歴史の中で重要な節目を迎える瞬間です。また、この年を機に、今世紀の重要な優先課題と考えられる健康問題(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、児童・思春期の健康、メンタルヘルス、気候と健康、健康のための研究)に注意を喚起したいと考えています。それぞれ注目すべき領域では、私たちが提案している問いかけを推進する活動プログラムを実施する予定です。2023年10月7日には、The Lancet誌の創刊記念号を発行する予定です。私たちは本年に、過去2世紀が今後2世紀の医療と研究にどのような影響を与えるかを考える予定です。その結果は、きっと驚くべきものとなるでしょう。

 

Lancet誌200周年記念キャンペーンが問いかけるもの

国民皆保険制度(UHC: Universal Health Coverage)

各国政府は、国民の保健医療の可用性、利便性、受容性、および質を向上させるため、その進捗に合わせて測定しなければならない。健康は単によく機能する医療システムによるものではないことが社会のあらゆる領域で認識されるべきである。

健康を保護し強化するために、政治的、経済的、社会的に断固とした行動をとらなければならない。

児童と青少年の健康

子どもたちは、保健・社会政策において真っ先に優先されなければならない。子どもたちや若者は、持続可能な未来のための不可欠な基礎であるという理由だけでなく、彼ら自身の権利として注目に値するのである。

各国政府および医療提供者は、自国および国家間において、子どもや若者の健康の公平性を優先すべきである。

精神の健康

社会のすべてが協力し、精神疾患を持つ人々に対する偏見と差別をなくし、尊厳と尊重を促進する必要がある。各国政府は、精神障害に対する臨床サービスを拡大すべきである。特に、精神衛生はユニバーサル・ヘルス・カバレッジに不可欠な要素であるためである。

健康と気候変動

各国政府は、化石燃料の探査、採掘、生産、使用を公平・公正な方法で速やかに段階的に廃止し、化石燃料の供給拡大を止めなければならない。医療機関や施設は、現在および将来の気候が健康や社会に及ぼす影響に対応するため、脱炭素化と適応のための投資を今すぐ行うべきである。

健康のための研究

社会のすべての部門は、知識と行動の間のギャップを埋める責任がある。それは政策決定者が意思決定を導き、情報を提供するために、確たるデータを利用することを要求し、保証することである。政策立案者、資金提供者、そして科学者自身が、健康に関する知識と理解を深めるために研究に参加者する人達が果たす役割について、より大きな認識を持つ必要がある。

 

原文記事:The Lancet at 200: a start, but more to do - The Lancet

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