ランセット創刊200年:未来に向けて
2023年10月5日はランセット創刊200周年記念日です。この日を記念して、ランセットは今週、特別テーマ号を発行し、ランセットの歴史が何を意味するのか、そして未来はどうなるのかを考えたいと思います。
ランセットの創始者であるトーマス・ウェイクリーは、医学知識をより多くの読者に開放し、当時の健康問題に政治的に関わることを意図していました。マーティン・ゴースキーとアグネス・アーノルド=フォースターは総説の中で、ランセットが過去2世紀で最も大きな科学的発見に参加したことを、先人たちが先鞭をつけあるいは加わってきた活動とともに紹介しています。しかし事実としては、編集者、査読者、著者、寄稿者の世代が変わるたびに、ジャーナルの個性、つまりジャーナルの関心や姿勢は変化してきたのです。
今日、本誌の視点は1823年当時のそれとは大きく異なっています。私たちの組織としての課題は、新しい時代に向けてウェイクリーの目的を再構築することなのです。おそらく、当時と現在の最も重要な違いは、私たちが世界中の共同体をこれまで以上に包括的に受け入れることを目指していることでしょう。私たちの意図は、健康、健康の公平性、社会正義の向上を目標に、健康、医学、医療科学について真にグローバルな対話を促進することです。この目的を達成するために、私たちは医学界、特に学術的な医学界との協力を拠り所としています。実際、私たちは研究界を、科学的昌道と社会変革のための、これから開拓されるべき資源と見なしています。
私たちの目標に向けた前進を加速させるため、また私たちの日を記念して、私たちが重要な優先事項と考える5つの分野(スポットライト)を選びました:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、メンタルヘルス、気候変動と健康、健康のための研究、そして児童・青少年の健康です。これまで私たちは何を学んできたのでしょうか?ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)については、政治指導者や国際機関の見かけは立派な言葉や偽りの約束によって、持続的な資金調達はならず、サービスの断片化、視野狭窄化したアプローチが、進展への継続的な障壁となってきました。持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の半ばを過ぎた今、UHCには新たな注目だけでなく、国家レベルでの具体的な運用への決意が必要です。将来の見通しは明るくありません。
メンタルヘルスの分野では、身体的、精神健康の間の根深い障壁を取り払うこと、精神的健康の権利に焦点を当てて、公衆衛生の取り組みを発展させること、そして研究やケアのすべての面に亘って精神的不調の体験を持つ人々を参加させることが、本誌の寄稿者が強調する最も重要な優先事項の一つです。スティグマ(社会的な烙印)は依然として進歩の大きな障害となっています。気候変動と健康にスポットライトが当たり、化石燃料産業を早急に禁止すること、医療部門の大きな二酸化炭素排出の削減、世代間正義に立脚したエネルギー転換への支援が求められています。どの国も「正味のゼロ排出」の要請を避けることはできません。気候変動という緊急事態の世界的な対応に致命的な欠陥があるのは、約束や公約に対する各国の責任を問う強力なメカニズムが欠如しているためなのです。
健康の研究において、本誌の稿者たちは、研究プロセスのあらゆる部分に参加者を含めることを主張しています。キャリアの浅い研究者が経験する不安定さが問題とされています。研究の構想、資金提供、出版における人種、民族、ジェンダーの不公平は、依然として許容できない現実となっています。対等なパートナーシップに基づく研究協力は、公正で包括的な研究態勢への重要な一歩です。児童と青少年の健康については、ミレニアム開発目 標(MDGs)の間に進展が見られたにもかかわらず、 健康と健康の公平性の継続的な改善機運は停滞しています。その理由は複雑で、お金、政治、そしてグローバル・ヘルスにおける流行の変化などでさまざまです。しかし、特筆すべき課題のひとつは、子どもたちに対するリー ダーシップが世界的にまったく欠如していることなのです。
200年は節目の一つでさえありません。人類の長くうつろう努力の歴史のほんの一コマにすぎません。私たちが健康の進歩と呼ぶものの多くは、医療技術の進歩によるものであると同時に、繁栄と教育機会の拡大によるものです。しかし、社会における思想としての健康の重要性は、身体の幸福・福祉という直接的な物質性を超えたところにあります。私たちの健康への関心と医療制度への投資は、私たちの社会的公約の証左であり、健康は私たちが人間的に連帯するという表現なのです。私たちは、この記念となる見識から教訓を学び、2024年、そしてその先へとつなげていきます。その一方で、私たちは、医療の実践は大きな責任を伴う特別な名誉であり、個人の健康だけでなく社会の健康も増進させるという考え方に触発された共同体の一員であることに感謝したいと思います。