米国の移民政策改革:   健康が第一優先事項

国際移住機関(IOM)のMissing Migrant Project(行方不明移民プロジェクト)によると、2022年は移民の死者が最多を記録した年であり、米国とメキシコの国境が世界で最も危険な陸路移民ルートでした。移民が強いられる危険な旅は、健康を損ねる幾多の危険に満ちています。この秘密のルートについての報道が困難であるため、移民が遭遇する困難の真の実態が見出しになることはめったにありませんが、米国が一貫して移民抑制に重点を置いていることは、移住の際の健康の複雑な条件を悪化させ、弱い立場の人々をいたずらに大きな危険にさらすことになっています。

 陸路で最も辺鄙な場所にあるのは、南米と中央アメリカの間にあるダリエン・ギャップで、地球上で最も過酷な環境のひとつになっています。ランセット誌に掲載された調査報告書では、2018年から2022年までのダリエン・ギャップにおける移民死亡のすべての法医学的事例を検証した結果、溺死、病死、刺殺、銃殺、原因不明などの死亡確認件数が毎年着実に増加し、2021年に急増したことを明らかにしています。IOMと国際赤十字の調査によると、この傾向は2023年まで続き、失踪者を加えるとこれらの総数は倍増する可能性があり、険しい無法地帯におけるデータ収集の難しさを浮き彫りにしました。怪我、病気、疲労、強盗、暴力、レイプなどの危険性に対する認識が高まっているにもかかわらず、今年になってここまで36万人が危険な移住の旅に赴いています。

 2022年にダリエン・ギャップを横断した25万人のうち、15万人以上が政治的迫害、極度の貧困、公衆衛生の危機を逃れようとベネズエラからやってきました。米国政府の圧力によって、メキシコ、コスタリカ、ベリーズは、ベネズエラ人の合法的な入国・通過を事実上禁止するビザ制限を課しています。こうして移民たちは、アメリカまでの4800キロの道のりを犯罪組織によって7つの国境を越え、密入国することを余儀なくされていのです。搾取も横行しています。コロンビアでは、カルテルが地元当局とつるんで、法外な価格で商品やサービスを移民に公然と売りつけています。メキシコでは、アメリカへの合法的な入国を待つ移民が、グアテマラから国境を越えて密入国するために雇ったそのギャングに暴行、恐喝、強盗、誘拐されているのです。

 援助や支援団体は、なすすべなく後手に回っています。亡命希望者に法的支援を行うNPO団体「ラス・アメリカス」は、2022年8月に1日あたり4000件の電話相談に応じ、電話相談者の70%が医療措置を必要としています。メキシコでは、INSABIの国民保険プログラムにより、すべての人に基本的な医療が提供されていますが、居住要件や資格の裁量的解釈により、移民の利用は制限されています。国境の両側で無料診療所を運営する慈善団体によると、新 たに到着した人々は、感染症や外傷、治療を受けていない高血圧や糖尿病、脱水症、がん、ハイリスク妊娠、精神衛生上の問題を抱えており、これらはすべて移住のストレスによって悪化しています。メキシコでは、国境の町以外でも無秩序なテント村が増えており、政府が運営する数少ない施設では感染症が蔓延し、限られた医療しか受けられていません。この手に負えない状況は、政府による緊急の介入を必要としています。

 広く非難された「タイトル42命令」は、COVID-19による公衆衛生緊急事態の間、移民がアメリカ国内で亡命を求める権利を認めず、国境を不法に越境して逮捕された人々を、直ちに国外退去させるよう国境警備隊に指示しました。訴訟の期間、2023年5月にプログラムが終了し、タイトル42を擁護することを拒否したにもかかわらず、バイデン政権は「メキシコ残留」の独自バージョンである「合法的経路の迂回」規則を発表しました。この規則は、不法に国境を越えて捕まった人々の亡命を求める権利を否定し、繰り返し不法越境を犯罪とするものです。代替の法的経路はモバイル・アプリケーションを必要とするのですが、その利用性の悪さと不安定な接続が批判され、しばしば数ヶ月の待ち時間が発生し、人々が切実に必要とする医療から遠く置き去りにされるのです。

 

バイデン政権は最近、すでに米国にいる数十万人のベネズエラ人を支援する措置を発表しましたが、国境や海外では移民にペナルティを科す政策を維持しています。移民に対する政治的偏向は、人間の苦しみを覆い隠そうとしています。バイデン政権は、暴力、飢餓、搾取から逃れてきた人々を受け入れる医療制度を必要としています。2024年の選挙は、米国が最終的に国境よりも人間を優先し、急増する人道危機に対処する機会となります。


原文記事:Immigration reform in the USA: health must come first - The Lancet

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