仕事と健康の未来

仕事の領域では急速な変化が生じています。早ければ2025年までに、企業は仕事を人間と機械に均等に振り分け、世界全体で8500万人の雇用を消滅させると推定されています。自動化とアウトソーシングへの加速は、雇用を貧困対策と位置づける政治的議論とは対極にあります。ほとんどの人びとは、労働条件の良い雇用は健康に良いと考えています。持続可能な開発目標8は、2030年までにすべての人のために完全かつ生産的な雇用と、まっとうな仕事の実現を求めています。しかし、この目標は危機に瀕しています。ダニエル・サスキンドは、『A World Without Work(仕事のない世界)』という本の中で、技術がもたらす失業について、歴史的な懸念は正鵠を得てこなかったとはいえ、政策立案者はもっと真剣に、仕事量が大幅に減少する世界の見通しを考慮すべきだと主張しています。このような世界は健康にどのような結果を生むのでしょうか?

 答えは単純ではありません。ランセット』誌に掲載された3つの論文シリーズが、仕事と健康の関係を模索し始めています。核となるメッセージは、仕事と雇用は人々の健康に影響を与える、しかし活用されていない手段となるということです。学校が若者の健康づくりの場と考えられているように、職場環境は働く人々の健康づくりに役立つ可能性を秘めています。しかし、本シリーズはまた、保健医療界が、狭い意味での職業上の危険に焦点を当てすぎており、健康の社会的決定要因としての労働に注目していないことを明らかにしています。本シリーズの最初の論文は、この状況を是正することを目的とし、労働の本質に及ぼすテクノロジーの影響や、気候変動が労働に与える脅威など、6つの新たな課題を明らかにしています。狭量で単純化しすぎる労働観は、政府の雇用に関するデータ収集の方法にも反映されています。雇用の条件よりも、雇用されているか否かという二項対立的な事柄にのみ焦点が当てられることが多いのです。Pega氏らによる本シリーズに付せられたコメントは、国際労働機関(ILO)とWHOの協力及び、より広範なデータを収集するための努力に焦点を当てています。

仕事と健康の関係を理解するためには、文脈がすべてであるため、このようなデータは極めて重要なものとなります。本シリーズの2番目の論文の包括的検討では、メンタルヘルス状態に関係する仕事の原因を調査し、いくつかの顕著な知見を得ています。例えば、職務緊張モデル(高い職務要求と低い職務統制の組み合わせ)は、うつ病の発症と最も強く関係するモデルです。評価された個々の労働条件の中では、職場でのいじめがうつ病の最大のリスクとなっています。

 3番目の論文では、ライフコースの観点からみて、退職が健康に及ぼす影響が依然として不明確であるとしています。定年退職は、仕事によっては労働者の健康にプラスに働くようですが、健康への影響はあまり明確ではなく、仕事の満足度の高い高学歴労働者ではマイナスに働く可能性さえあります。米国の研究では、失業は体調不良を訴えるリスクが2~7倍高いことと関連していることが示されています。州の失業給付を多く受けると、この悪影響は男性では軽減されたが、女性では軽減されていません。全般的に見て、このシリーズの著者は、賃金をもらえる雇用は良い健康と関連していると結論しています。

 

マージョリー・ケリーは、著書『富の至上主義』の中で、新たな「明白な運命」について書いています: そこでは、労働組合が潰され、アメリカの全労働者の40%が不安定で健康に良くない条件の臨時労働者に移行し、オートメーション化によって雇用が完全に消滅するという、労働者に対する数十年にわたる戦争が繰り広げられています。保健医療界は、それに対してどうするべきなのでしょうか?このシリーズでは、政府が雇用主に対して良好な労働条件に対する責任を負うよう提唱することや、労働者の健康に対する新たな脅威を抑制する職場介入策を立案・評価することなど、有益な提言がいくつかなされています。需要は多くあっても、コントロールが難しい仕事が自動化されれば、仕事量は減ったとしても、充実した仕事が公平に行き渡るようになるかもしれません。しかし、この変化はそれだけでは起こらないでしょう。保健医療界は、ILOや労働組合など他のセクターや組織と意義ある連携を行い、自動化のスピードを検討し、健康を守る方法として可能性のあるユニバーサル・ベーシック・インカムやクレジットなどの大規模なイニシアチブの評価を加速するよう提唱しなければなりません。労働が減少していく新しい世界を想像し、その構築には保健医療界が中心となる必要があります。

原文記事:The future of work and health - The Lancet

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