ポリオ撲滅:最後の関門?

この3年間、ポリオ撲滅に向けた取り組みに目覚ましい進展がありました。3型ポリオウイルスの世界的な撲滅が宣言され、野生型ポリオウイルスは、アフガニスタンとパキスタンの孤立した地域に限定されました。しかし、ポリオが世界各地で再興し、撲滅の最終段階は足踏み状態が続いています。COVID-19によって世界ポリオ撲滅推進計画(GPEI)の予防接種活動が一時的に停止した結果、循環型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)の発生は2019年から2020年にかけて3倍に増加し、1100人以上の子どもが麻痺に陥っています。

全米保健機構(PAHO)は、ワクチン接種率の低下に伴い、ブラジル、ドミニカ共和国、ハイチ、ペルーがポリオ再興の危険性が高いと警告しています。2021年の世界のポリオ予防接種率は80%に低下し、過去14年間で最低となりました。世界ポリオ根絶計画(GPEI)の目下の悩みはお金です。10月に開催される会議では、パートナーやドナー国から40~80億米ドルを調達し、2026年までにポリオを撲滅する政治的公約を求める予定です。しかし、経済的不安定、生活費の危機、国際保健資金の分散化の懸念があり、各国政府はポリオを重要視していないかもしれません。GPEIの独立監視委員会は、最近の楽観的な見方について「いくつかの厳しい現実をみれば改めなければならない」と警告しています。パキスタンでは広範囲の洪水により、医療サービスが危険にさらされています。アフガニスタンでは、2月には8人のワクチン接種従事者が殺害されました。理事会は、地方自治体と協力し、安全性確保の約束を取り付ける必要性を強調しています。

新しい経口ポリオ2型ワクチンは、WHOの緊急承認を得ました。しかし、新規のワクチンは不足しており、技術的な解決策だけでは根絶への障壁を克服することはできません。Konstantin Chumakov氏らは、GPEIは、ウイルスそのものを根絶するのではなく、病気としてのポリオの根絶に再び焦点を当てるべきであると主張しています。単一の疾病のための垂直型の保健プログラムに巨額の資金と労力をつぎ込むことが公正であるかどうかを問うことは当然です。

GPEIは1988年の発足以来、ポリオの発生件数を99.9%減少させ、100~500万人以上の命を救い、1,600万人を麻痺から救ってきました。野生ポリオウイルスの血清型のうち2つ(2型と3型)は、世界中で根絶されました。しかし、ひとつだけ確かなことは、世界的にポリオが息を吹き返せば、健康にとって災難になるということです。

原文記事:Polio eradication: falling at the final hurdle? - The Lancet

ポリオ:ポリオ | 公益社団法人 日本WHO協会 (japan-who.or.jp)

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