難民への取り組みを再考する
2023年の世界難民デーのテーマは、「hope away from home:住処を離れざるを得ない者の願い」、すなわち難民も常に一員である世界です。しかし、残念なことに、英国、欧州の一部、米国など、特に高所得のいくつかの国では、難民への取り組みは寛容であるとは言い難く、その代わりに、追放、抑止、封じ込め、送還に焦点が当てられています。今こそ、難民への取り組みを見直し、侵略、恐怖、偏見から脱却し、彼らの保護と尊厳に対する責任を共有する時なのです。
まず、真実から始めましょう。移住は、何千年もの間、人類の存在の特徴でした。70,000~100,000年前、ホモ・サピエンスはアフリカから移住を始め、ヨーロッパとアジアの一部で人口が増えました。それ以来、人類の移動は止まっていないのです。人々を難民に追い込む状況では、不正義と残酷さがつきまといます。そのような状況下では、難民の予防、緩和、解決、そして賠償金が要求されます。しかし、自発的であれ強制的であれ、人の移動そのものが、私たちの歴史と未来に欠かすことのできない要素です。移動は、すべての人にとって可能な限り思いやりのある手段で実現されなければなりません。
課題がいくつもあります。国連難民機関によると、迫害、紛争、暴力、人権侵害、治安のかく乱によって強制的に追われた人々は推定1億800万人で、そのうち3530万人が難民と見なされています。多くの欧州諸国や米国では、政治家やメディアの扇動的な言説や政策によって、難民や移民に対する憎悪を募らせており、これを克服するのは容易ではありません。ドナルド・トランプをはじめとする共和党員が「難民の侵略」とするレトリックは悪意に満ちたものであり、メキシコのギャングによる暴力やベネズエラの経済破綻など、根本的な解決が必要な問題を悪化させています。シリア、ウクライナ、アフガニスタンをはじめとする紛争とその影響は、簡単に解決できるものではありません。
さらに、低・中所得国(LMICs)は世界の難民や国際的な保護を必要とする人々の76%を受け入れていますが、これらの国々は難民のニーズを満たす資源が最も不足しています。テュルキエの地震、パキスタンの洪水、レバノンの経済崩壊など、多くの国が国内危機と闘っているのです。残念ながら、再定住や真の意味での地域統合といった解決策がないため、多くの難民が無視された状態に置かれています。人道支援に頼ることが多い難民の多くは、LMICsの正規の労働や生活の機会をつかむことがほとんど、あるいは全くないのです。国際社会からの支援が減少するにつれ、受け入れ国は難民を制限する政策や施策へと突き進んでいます。
しかし、保健分野からは希望の光が見えてきています。5月の第76回世界保健総会では、「難民と移民の健康促進に関するWHO行動計画」を2030年以降も延長する決議が採択されました。これは、各国が移民や移住の急性期以降に、難民や移民の健康と福祉・幸福に取り組むための長期的かつ総合的な政策を取り入れるのに役立つはずです。積極的な行動の例として、ベネズエラ人移民に関するオープンな政策によって許可を可能としたコロンビアのホスト国と移民の共同社会への投資、家族との再会、社会・教育・保健プログラムの移民集団への拡張などが挙げられます。
難民の保護は、1951年に採択された「難民の地位に関する条約および議定書」に規定されています。これは、第2次世界大戦による数百万人の大量避難という差し迫った国際問題への現実的な対応でありました。現在、世界は紛争、気候変動、自然災害の中で、同じような緊急の問題に直面しています。2023年、強制移住は増え続け、スーダンの紛争だけでも378,000人が近隣諸国へ避難しています。2022年には、過去最高の3,180万人が気象災害によって避難しています。
このような現実を否定し、未来に生じることを無視することは、リーダーの無能さを意味します。高所得国は、特に不利な状況を生み出した責任の多くを負っているため、LMICsへの難民圧力を軽減するために資源を使うべきです。その対応は、協調的、積極的、現実的である必要があります。しかし、この条約は人道的な理想にもとづいています。この条約は、私たちのベストを追求するものであり、私たちのワーストを追求するものではありません。この条約と今日の議論の多くには欠けている部分があります。賞賛と尊敬、そして尊厳を持つべき人々への冷笑や皮肉を覆すためには、現実主義の主張と、ヘルスケアの必要性を含めた思いやりの主張が合体する必要があるのです。
原文記事:Rethinking our approach to refugees - The Lancet