ロシアのウクライナ侵攻:健康への攻撃

1年前の2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、甚大な被害と破壊をもたらしました。国連人権高等弁務官事務所は2月6日現在、ウクライナにおける民間人の死者は7155人、負傷者は11662人と発表しているが、実際の数字はもっと多いと考えられます。双方の兵士20万人が死傷しています。少なくとも600万人のウクライナ人が国内避難民となり、800万人以上のウクライナ人難民が欧州全域で登録されています。殺人、拷問、レイプ、強制送還などの行為は、カマラ・ハリス米副大統領が「人道に対する罪」と断罪しました。次第に明らかになってきたことは、ロシアの戦略の主要な特徴は、保健・医療システムを破壊することであり、ウクライナ人の健康の権利が深刻なまでに侵されています。

侵攻後の2週間、毎日4~5件の病院や診療所が攻撃されました。2022年12月31日までに、218の病院と診療所(国内の病院のほぼ9%)への被害、181のその他の医療施設(薬局、血液センター、歯科診療所、研究機関など)への攻撃、65の救急車への攻撃、86の医療従事者への攻撃(これはおそらく過少評価であるが、62人が死亡、52人が負傷)を含む707件の攻撃が記録されています。証言のそれぞれは悲惨なものです。ルハンスクのセベロドネツク・マルチプロファイル病院は、2022年3月から5月にかけて10回の攻撃を受けました。ドネツクのロシアが運営する刑務所に収容された医師たちは、拷問や非人道的な扱いを受けたと証言しています。

戦争によって、医療サービスの質が低下している地域があります。多くの施設には水道や電気が通っていません。ウクライナ東部の病院は必要な医療のごく一部しか行えないため、患者はより遠くまで移動するか、治療をあきらめることを余儀なくされています。2022年の小児ワクチン接種率は約60%と推定され、ポリオ、はしか、ジフテリアなどの病気が蔓延する危険性があります。ウクライナ政府の支配下にある地域では、必須医薬品のサプライチェーンが維持され、医療が行われていますが、ロシアの支配下にある他の地域については、どうなっているかは、分かっていません。慢性疾患の管理も難しくなっており、多くの避難民が高血圧や循環器系の薬を止めたと報告されています。紛争は精神衛生にも害を及ぼし、民間人と兵士ともに心理的トラウマを抱えています。

ロシアの責任を追及するための国際的な法的取り組みが進行中です。プーチンを含むロシアの文民および軍指導者は、ウクライナにおける戦争犯罪と人道に対する罪の容疑で、国際刑事裁判所と、欧州議会とドイツおよび英国政府が支援する並行特別法廷によって捜査されています。しかし、仮に有罪となったとしても、プーチンらが逮捕される状況は想像がつきません。その一方で、戦争は終わりが見えないまま継続しています。緊急かつ事後的な人道的対応から、より長期的な計画へと移行していかなければなりません。紛争を終結させ、ウクライナに正義をもたらすことはもちろん、現在の残虐行為だけでなく、その後の変わり果てたウクライナや欧州全体のために、地域全体の健康を守るための取り組みが必要となっています。

原文記事: Russia's invasion of Ukraine: an attack on health - The Lancet

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