自殺の犯罪化

自殺願望(念慮)を持つ人々を刑事手続きにかけるのではなく、ケアと治療を行うことは人道的で、適切なことでしょう。しかし、20カ国以上において、自殺や自殺未遂は、生存者には投獄や罰金、自殺で死亡した人の家族にも金銭的な罰則が科される犯罪として存続しています。そのような法律が存続しているのは、少なくとも2つの争点となる考えに基づくものであり、それを問い直す必要があります。

 

第一は、法律が抑止力として機能するというものです。しかし確たる抑止効果を証明することは困難です。自殺や自殺未遂による死亡は、報告されることが少なくなく、研究結果はまちまちとなっています。自殺未遂を非犯罪化した後に自殺率が上昇した国もあります。また、自殺未遂の犯罪化を維持している国の自殺率は、世界平均よりも低いというデータもあります。しかし、昨年発表された研究では、自殺の犯罪化によって、特に女性の自殺率がわずかに上昇を見たことと関連していると報告されています。

 第二の誤解は、自殺や自殺未遂は犯罪ではないとすることで、自殺が容認されているのではないかというものです。しかし、自殺を刑事司法制度の問題と考えるのではなく、法律以外の社会的領域、特に健康分野の対応を必要とする問題へと移行させることです。罰則付きの法律は、自殺未遂後に病院で療養している患者が、療養を離れると訴追を受けるという、事実上、自殺しなかったことを罰するような悲惨な状況を招きかねないのです。このような法律は、個人や社会に対して、精神的不調や精神疾患に烙印を押すような目で見る姿勢を浸透させるものです。

 自殺願望や精神疾患を持つ人々に対する啓発的な取り組みの発展が、異なる国で異なる時期に起こったという事は、その複雑さを物語っています: 例えば、スウェーデンは1864年に、フィンランドは1910年に、オーストラリアは1958年に、イングランドとウェールズは1966年に、アイルランドは1993年に、そしてパキスタンは2022年に自殺を非犯罪化しました。ヨルダン議会は、軍の指導者の指示のもと、最近、公共の場での自殺と自殺未遂を犯罪としました。世界では毎年703,000人が自殺で命を落としており、自殺で1人亡くなるごとに、20人が命を絶とうとする可能性があると言われています。例えば、アメリカでは、2011年から2021年にかけて、悲しみや自殺念慮が強いと回答した10代の少女が57%も増加しています。

 

自殺で人生を終える人や自殺未遂をする人の多くは、主にうつ病、統合失調症、飲酒に伴う障害などを抱えています。医療に関わる入り口で効果的な治療を行うことが、医療従事者の最初の目的であるべきです。さらに、有害物質や医薬品の管理、家庭用ガスや自動車の排ガスの無害化、銃規制、高所からの飛び降りを阻止する障壁の設置、責任あるメディア報道、10代の自殺や自傷行為の増加に関係すると多くの人が考える、ソーシャルメディアの制限や管理などを含む予防プログラムの実施と資金が必要です。

 危機的状況に陥り、自分の人生を終わらせたいと考えていることを訴える人々への対応は、自殺や自殺未遂を禁止する法律を放棄した国でさえも、依然として問題がなくなったとは言えません、精神的な苦痛を抱えた患者が、自由を奪われ続ける事例があまりにも多く、こうした対応は痛みや苦悩を和らげることにはほとんど役に立たないのです。

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自殺 | 公益社団法人 日本WHO協会 (japan-who.or.jp)

Suicide (who.int)

原文記事:Punishing the tortured: criminalisation of suicide - The Lancet

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