定期予防接種:衰退傾向の逆転
COVID-19パンデミックは、ワクチン接種の効果とその可能性を示しました。しかし、パンデミックによって医療サービスが混乱し、サプライチェーンに課題が生じ、定期接種の停滞や後退を招きました。ジフテリア、破傷風、百日咳ワクチンの3回目の接種率は、2019年の86%から2021年には81%に低下し、2008年以来最低の水準となりました。他の多くの定期接種も減少を示しました。2021年には2500万人の子どもたちが、麻疹、ジフテリア、破傷風のワクチンを受けられない状況になりました。1,800万人は、ワクチンなるものを1回も接種したことがありません(いわゆるゼロ接種児)。「2023年世界予防接種週間」では、パンデミック前のワクチン接種レベルへの回復を呼びかけています。
世界の予防接種率を向上させる活動の中心は、Gavi(ワクチン同盟)です。Gaviのプログラムによって9億8100万人以上の子どもたちが予防接種を受け、1620万人以上の死亡を防いでいます。8月には、元世界銀行でナイジェリア保健大臣を務めたモハメド・アリ・ペイト氏がCEOに就任する予定です。彼は優先事項として、各国が必須の定期予防接種プログラムを拡大し、ゼロ接種児を対象とし、新しいワクチンの普及、一次医療システムの変革、感染症の集団発生や将来のパンデミックとの闘いを掲げています。
各国内での定期予防接種の強化に関しては、2021年に開始されたWHOの「予防接種計画2030」が世界的な取り組みの中心となっています。予防接種を一次医療サービスに統合し、国家戦略計画の策定を奨励することによって、すべての人が予防接種を受けられるようにすることを目指しています。しかし、世界全体の予防接種の普及率や医療従事者の慢性的な不足は、良い兆候とは言えません。
ペイト氏が言及したのは、新しいマラリアワクチンのことを指していると思われますが、Gaviは資金とその分配を支援するかどうかをまだ発表していません。RTS,Sワクチンは、ガーナ、ケニア、マラウイでパイロットテストが行われています。オックスフォード大学が開発し、インドの血清研究所が製造する第二のワクチンR21/Matrix-Mは、ガーナで承認され、WHOはこれを推奨するかどうか評価中です。また、COVID-19ワクチン開発の成功に刺激され、がんから心血管疾患、自己免疫疾患に至るまで、各種のmRNAワクチンが喧伝されています。
COVID-19パンデミックの重要な教訓は、ワクチンの公平性を確保することの難しさです。高所得国がワクチンを買いだめする一方で、低・中所得国は取り残されてきました。COVID-19ワクチンの公平・公正な配布を確保するCOVAXは、その成果をあげることができませんでした。パンデミックへの備えと対応に関する新しい条約案は、曖昧であやふやな理想主義的なものであり、実践の詳細が欠けている部分が少なからずあります。ペイト氏の目標を達成するためには、公平性に関してもっと力強く明確なアプローチが必要となります。
彼が言及しなかった課題のひとつに、小児期の予防接種を以前から脅かしているワクチンへの躊躇があります。ユニセフ報告書では、COVID-19の流行時に55カ国中52カ国で、小児用ワクチンの重要性に対する国民の意識が低下したと警告しています。ワクチン接種のためらいに取り組まなければ、接種率を高めようとする取り組みは苦戦を強いられるでしょう。各国は、小児期の定期予防接種を向上させる上で、多くの課題に直面しています。ペイト氏がGaviを率いることになって、彼の計画を達成することができれば、時期を得た再活性化の機会になるでしょう。
原文記事:Routine immunisations: reversing the decline - The Lancet