孤独な環境:孤独の多層的決定要因に関する研究の必要性

Xiaoqi Feng, Thomas Astell-Burt, Open Access Published: December, 2022

https://doi.org/10.1016/S2542-5196(22)00306-0

(本論文はLancet 20230708号に掲載されたもの)

孤独感とは、人とのつながり、交友関係、仲間意識の欠如を感じることである。成人の少なくとも4分の1が持続的な孤独を経験していると報告されており、その結果は精神的・身体的健康に大きな悪影響を及ぼす可能性がある。孤独が引き起こしたり悪化させたりする害の証拠が増える中、英国政府は2018年に孤独担当大臣を任命した。日本も2021年に続いている。しかし、孤独に対処するための行動は、精神衛生を指向するもので、治療に重点を置くが、それらは効果は弱いか、またはない傾向にある。残念ながら地球全体の健康の時代であるにもかかわらず、孤独とそれに対処するために何ができるかを語るとき、目に見えないが、強力で動的な環境の影響を無視しがちである。

孤独は病気ではなく、人々の健康や社会的 ニーズを優先してこなかった都市計画や社会システムの特徴なのである。孤独を根付かせる状況を打破することなく、またある人々が他の人びとよりも孤独に陥りやすい状況を打破することなく、個人に焦点を当てた救済策への投資は失敗に終わっている。

2022年に、私たちは孤独を生み出す要因について議論するために、さまざまな消費者団体や地域社会の団体と関わってきた。高齢者、内向的、車椅子使用者、外国生まれ、独身といった理由だけで、孤独になるリスクが高まるわけではないことがはっきりした。社会全体で行われる、近視眼的で、不注意で、無謀で、怠慢な決定が、社会的烙印や構造的差別(人種差別、性差別、能力差別、階級差別)を助長し、これらの属性を持つ多くの人々を、永遠の孤立、不安を感じさせるような、社会的に造られた環境を生み出しているのだ。

おそらく、社会全体で人よりも自動車が優先されていることほど良い例はないだろう。地域社会を縦断する道路は、往来が激しく、駐車車両が散乱する騒々しい大動脈となり、人々が集う場所を奪っている。スプロールを作り、生活に必要な商品やサービスを手に入れるための距離を長くしている。このような自動車への依存は、立ち止まって隣人とで知り合う有意義な機会を奪っている。電気自動車がこれを変えることはないだろう。

一方、多くの都市で街路樹が計画的に伐採され、新しい植え込みが維持されていないため、歩行者から雨や暑さをしのぐ自然の傘が奪われている。このことは、低所得者層が多く住む地域社会で往々に見られる、公共の緑地の放置や縮小とともに、人々から滋養に満ちたつながりや地域社会の精神を育む場を奪っている。

車への依存や樹木の天蓋を喪失することは、社会的なつながりや身体活動を妨げるだけでなく、環境に親和しようとする行動を育み、復元力の重要な源となる、人間世界以上の何ものかとのつながりを間接的に弱めている。

多くの国で、医療の専門家が標準的な治療の補助として、自然の中で過ごす時間を指示することが多くなっているのも不思議ではない。

このような状況の中で、人々が地域の状況を乗り越えて地域社会とつながろうとする媒体として、スマートフォンやソーシャル・メディアの訴求力を理解するのは簡単だ。しかし、ネット上でつながっても必ずしも交友関係に結びつくとは限らず、ネット上の幸福を映し出すという社会的期待が、人々をより悲しく、より孤独な気分にさせることもある。

肥満の環境決定要因に関するこれまでの研究からヒントを得 て、私たちは孤独を引き起こしたり、悪化させたりする複雑な状況・条件を意味する「孤独誘発環境(lonelygenic environments)」という用語を作り出した。私たちは、緑地と孤独に関する既存の概念的枠組みを採用し、ローカルとグローバルの文脈を超えて普遍的なものとするために、2つの重要な修正を加えた。一つ目は、孤独に対する社会的偏見と、人々がそれにさらされたり社会から排除されたりする環境にはびこる、様々な形で存在する構造的差別を認めることである。これらの要因を減らすための介入は助けになるが、孤独を減らすための活動はそれだけで終わることはない。第二は、複数の物理的・仮想的環境を統合するもので、人々が生活したり働いたりする環境以外の第三の場所(公園、図書館、カフェなど)も含まれる。これらを総合することで、複雑な社会的相互作用が行われる環境となり、介入に的を絞る機会を作り出すものとなる。

このような相互作用が質の高い人間関係を生み出すか、 あるいは人々を孤独な気分にさせるかは、個人的な状況と場所の状況の一致に左右される。例えば、ある地域の再生は、つながりのための新たな機会を生み出すかもしれないが、同時に、住宅価格の低下を心配する人々には相いれないかもしれない。別の例として、利用しにくい公園では、身体障害を持つ人々が社会的に排除されることがある。このような状況は、つながりを促進する場所が、他の人々にとっては疎外するものとなることを意味する。

何層にも重なる要因と、それらに関わる私たちの集団的、関係的、個人的な経験を考慮することは、誘発される危害の規模や、可能な解決策(それが能力構築的なものであれ、修復的なものであれ、あるいは本質的に危害を軽減するものであれ)の効力を定義するために不可欠である。私たちは、場所によって異なる孤独になりやすい環境を測定するエビデンスの基盤を確立し、そのエビデンスをすべての人に有効な孤独低減の戦略を最適に統合するための研究を必要としている。

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