孤独と健康
孤独は今に始まったことではありませんが、社会的・健康的な懸念として注目を集めています。英国は2018年に、日本は2021年に孤独・孤立対策担当大臣を任命しました。米国公衆衛生総局の長官は最近、孤独を喫煙に匹敵する公衆衛生上の大きな問題、すなわち1日15本のタバコと同じくらい身体の健康を損なうとしました。COVID-19の大流行は、物理的な距離を置く期間を必要とし、多くの人々の労働生活を変化させました。健康への害は明らかです。社会とのつながりが希薄になると、心血管疾患、高血圧、糖尿病、感染症、認知機能の低下、うつ病、不安症などのリスクが高まります。しかし、公衆衛生的アプローチで孤独に対処できるでしょうか?
孤独のつかみどころのない性質と影響は、理解する上でむつかしさが多々あります。有意義なつながりが不十分であるために生じる否定的な経験として広く理解されていますが、公衆衛生の領域においてはコンセンサスが得られる定義に到達するのに苦労してきたのです。孤独は、一人ぼっちと同じではありません。それは0か1かという二元的な状態ではなく、孤独感は文化的規範によって大きく形作られるのです。この主観性ゆえに根本的なむつかしさがあります。どのようにして感情の測定を標準化できるのでしょうか?喫煙との比較は、孤独がもたらすダメージを説明するのに役立つかもしれませんが、期待できそうな解決策を示すには不十分です。課税や規制の対象となる製品もなければ、対象となる明らかな病理もありません。こうしたむつかしさは、小規模な試験、短い観察研究、多くの異なる定義といった文献の質の低さにも反映されています。このような複雑な現象に対して、単純化された画一的な介入策は成功しそうにありません。
おそらく必要なのは、社会と私たちを取り巻く世界がどのように構築されているかの産物として孤独を認識することです:それはXiaoqi FengとThomas Astell-Burtが "lonelygenic environments "と呼んでいるものです。都市計画によって方向づけられた物理的な環境では、交流や関わり合いが可能にならなければ、社会的なつながりが阻害されかねません。リモートワークが一般的になり、同僚と有意義なつながりを持つことが難しくなっています。ソーシャル・メディアの利用は、人々をひとつにすると約束しながら、社会的断絶感を強化しているのです。緊縮財政、貧困、人種差別、外国人排斥は、不公平感や排除感を引き起こします。集団主義や帰属意識を犠牲にして個人主義に向かう社会の傾向は、孤独感を増大させる危険を生み出します。このような根本的な原因がどのように孤独感を助長するのかを理解し、より良い方向へ変化させ、あるいは再構築するようにする必要があります。例えば、緑地の造成を優先することで、共同社会を育み、精神的健康を改善することができるのです。
孤独についての理解を深め、広げる必要があります。113カ国のデータのメタ分析によれば、孤独は世界的な問題であり、多くの国でかなりの割合の人々が孤独になっています。しかし、データは乏しく、特に低所得国や中所得国では、検証された評価ツールがないことが悩みです。サーベイランスの改善と標準化された定義が不可欠です。さらに、孤独や社会的な孤立は主に高齢者の問題であるということではなく、孤独はあらゆる年齢の人々に影響を及ぼすため、孤独を理解し和らげるためには人生に沿った取り組みが必要です。社会化が発達に重要となる思春期や若年成人は特に影響を受けやすく、精神・身体の両面に亘って長期的に好ましくない影響を受けるリスクがあります。2020年に私たちが主張したように、孤独に対処するための努力は、それが複雑なものであってそれぞれに異なることを考慮し、一人ひとりに対応にする必要があります。
このように考えると、孤独は社会全体が注意を払わなければならない問題なのです。しかし、保健分野では、少なくとも意識を高め、孤独に付きまとう社会的偏見を減らす手助けをすることで、重要な役割を果たすことができます。一般診療所は、モニタリングとサーベイランスのために重要であり、おそらく社会的処方を通じて介入を行うこともできるでしょう。しかし、介入に関するエビデンスは乏しく、介入を評価する枠組みが必要です。
孤独が健康に及ぼす影響を広く理解することは重要です。しかし、システム思考の適用、ライフコース的アプローチ、世界的な問題としての孤独の理解は、いずれも発展途上にあります。Melody Ding氏らが主導する、孤独と社会的孤立に関するランセット誌のシリーズでは、これらの問題を調査し、研究、実践、政策についてデータに基づく提言をまとめる予定です。今のところ、おそらく医療従事者が孤独感を和らげるためにできる最も有用な貢献は、患者と有意義な交流を持つことなのでしょう。たとえちょっとしたものであっても、つながりを確立することで、すべてが変わるかもしれないのです。