銃暴力の理解と対処

アメリカはようやく銃の問題に真剣に取り組んでいるでしょうか?カマラ・ハリス副大統領が監督する「ホワイトハウス銃暴力防止局」が新設されました。銃乱射事件による健康や福祉への重大な危害を抑制する法整備を実行し、この国を長い間患わせてきた問題に対してリーダーシップを発揮することが期待されています。この進展は米国CDCと国立衛生研究所が、銃を用いた暴力を研究するために数十年ぶりに連邦政府の資金供与を受けてから4年後のことになります。これは1996年のディッキイ修正条項(注)によって長い間、その趣旨の資金使用を禁じていた制約が緩和されたことに続くものです。銃による暴力の負荷(銃器による傷害は、1歳から19歳までのアメリカ人の死因の第1位である)に比べれば、この金額はまだあまりにも小さく、銃規制の努力は議会における妨害工作に直面し続けています。しかし、これらは少なくとも前向きな一歩です。

 米国の銃規制は政治的、文化的、憲法的側面から、身の毛のよだつ幾多の銃乱射事件を見れば、銃暴力をめぐる国民的議論が、いろいろな意味で異常である国によって支配されていることを意味しています。銃は世界的な健康問題でありながら、その重要性はあまり認識されていないのです。米国の推定死亡率は他の高所得国と比べて高く(人口10万人当たり4人)、アフリカや東南アジアの多くの地域とほぼ同じです。しかし、中南米の死亡率が最も高く、特にブラジル(10万人当たり21.9人)、メキシコ(16.4人)、グアテマラ(29.1人)、ベネズエラ(33.3人)、エルサルバドル(36.8人)となっています。これらの全体的な統計では、格差の多くや複雑さが覆い隠されていますが、健康への影響は明らかです。銃による暴力は、死亡や平均余命の短縮を引き起こすだけでなく、長期的な身体的・精神的不調を引き起こします。銃による暴力の心理的な障害は、家族や地域社会に悪影響を与え、人々の繁栄を阻害し、世界の社会的流動性に世代間をまたいだ影響を与えています。

 銃に対する公衆衛生からのアプローチが必要であることは、予防と危害軽減の原則に基づいたデータに基づく政策が過去からずっと認識されてきたものの、いつも受け入れられたというわけでもありませんでした。『Lancet Public Health』誌に掲載された論文は、現在施行されている多くの銃に関する法律の個々の効果が十分でないことについて言及しています。特に低・中所得国においては、銃暴力に関して一層の研究が切実に求められています。しかし、銃器の使用、販売、所有、保管など、銃器規制を対象とすることで、銃器による死亡率を減らすことができるという十分な証拠があるのです。オーストラリアはその典型的な例で、35人が死亡した銃乱射事件の後、1996年に導入された一連の改革は銃による殺人や自殺の減少につながっています。銃による暴力の主な危険因子は、身近なパートナーからの暴力、アルコール使用、高温など、公衆衛生からのアプローチが可能なものなのです。銃乱射事件はまれですが、女性が被害者となることが多い家庭内での発砲事件は稀ではありません。最近のランセット委員会が結論づけたように、健康の公平性とジェンダー平等の改善は、社会を永続的な平和への道へと導くことができるのです。

 しかし、健康面のアプローチだけでは不十分です。銃による暴力は、健康や福祉だけでなく、犯罪、法の執行、不公平、貧困、教育、制度への信頼、強力な既得権益、そして文化にも結び付いている複雑な問題なのです。権利、仲間からのプレッシャー、男らしさ、地位、魅力、権力など、銃をめぐる社会規範を変えることが必須ですがそれは容易ではありません。おそらくこうした課題は、なぜ銃や銃による暴力がいまだに多くの国際保健機関や規制機関が見過ごされてきたのかを説明するのに助けとなるでしょう。銃を用いた殺傷行為による世界の死亡率は、ここ数十年ほとんど変わっていません。この進歩のなさが、なぜもっと注目されないのでしょうか。銃器による暴力は、2019年の15~49歳の死因の中で世界第10位(ラテンアメリカ南部では第5位、ラテンアメリカ中部では第1位)でした。このような課題や誤った理解があることを認識したうえで、必要とされる世界的かつ学際的な見通しを立てようと、銃と健康に関するランセット委員会が結成されているところです。紙タバコはモダンで、クールな都会的な若者の象徴と考えられていました。その紙タバコが、強力な商業的利益の追求によって推し広められてきたものであり、害と不健康を社会にもたらすだけの、社会的に好ましくない商品であることを世界に納得させるには時間がかかったのです。そのメッセージは今でも社会に行き渡らないこともありますが。銃に関する一連の状況を変えるには、時間が必要であり、国際保健医療分野からの強い圧力を含めて、多面的で学際的なアプローチが必要となっています。

 

原文記事:Understanding global gun violence, and how to control it - The Lancet

注)ディッキー修正条項とは、1997年のアメリカ合衆国連邦政府のオムニバス歳出法案に、「疾病管理予防センター(CDC)における傷害予防と管理のために利用可能な資金は、銃規制を提唱または推進するために使用してはならない」という条項として初めて挿入されたものである。同じ歳出法案において、議会はCDCの予算から260万ドル(前年まで銃器研究のためにCDCに割り当てられていた金額と同額)を外傷性脳損傷関連の研究に充当した。

 修正案は全米ライフル協会(NRA)によって働きかけられ、アーカンソー州選出の共和党下院議員であるジェイ・ディッキーにちなんで命名された。ディッキー修正案は明確に禁止していなかったが、約20年間、CDCは財政的な罰則を受けることを恐れて、銃暴力に関するすべての研究を避けていた。議会は2018年、そのような研究を可能にするために法律を明確化し、2020年度連邦オムニバス歳出法案は、1996年以来初めてそのための資金を計上した。

(Wikipedia: https://en.wikipedia.org/wiki/Dickey Amendment)


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