結核:従来と異なるアプローチを考える

読者が既視感を覚えるのも無理はないでしょう。国連総会は9月22日に結核に関するハイレベル会合を開催し、各国は2030年までに結核を終息させるという公約を再確認し、2027年までに4,500万人を治療し、さらに4,500万人に予防治療を提供し、年間220億米ドルを結核に費やすことを約束します。しかし、結核に関する国連ハイレベル会合はこれが初めてではありません。

2018年に開催された会合では、治療、予防、資金援助に関する野心的な目標が設定されました。しかし、1つの目標(600万人のHIV感染者に予防治療を提供すること)以外のすべてが大きく未達であり、WHOの「結核撲滅戦略」に向けた進展は不十分です。このような政治的公約を具体的な成果に結びつけることが困難であることがはっきりしています。COVID-19以前でさえ、資金は停滞し、疾病負担の軽減は遅々となっていました。結核を政治課題の最上位に掲げることは称賛に値しますが、この病気は軽視され続けているのです。今回はこれまでと違うことが期待できるのでしょうか?

 今週の『ランセット』誌に掲載された2019年結核委員会の最新報告では、何が問題で、何が達成することができるのかについて概説しています。結核による死亡者数は2021年には約160万人でした。委員会は、結核の疾病負担を大幅に減少させる可能性のある一連の新しい手段を概説しています。有望な診断薬や治療期間短縮の改善だけでなく、100年ぶりに新しい結核ワクチンがまもなく利用可能になるかもしれないという希望もあります。ビル&メリンダ・ゲイツ医学研究所が開発したM72は、第2相臨床試験での目覚ましい結果を受け、2024年初めに第3相臨床試験を開始する予定です。しかし資金調達は依然として大きな課題となっています。2021年に結核に投入した資金は50億~40億ドルで、必要額の半分にも満たないのです。世界基金は直近の補填目標を達成できませんでした。しかし、委員会が指摘するように、結核への投資は大きな見返りを生み出すことができるのです。

 ワクチン、治療法、診断法の進歩は結核にとって不可欠であり、政治の最高レベルでそれらの普及を提唱するのは正しいことです。しかし残念ながら、戦争や食糧難、経済情勢の厳しさを懸念する世界の指導者たちにとって、結核が重要な課題であるとは考えにくいのです。実際問題として、保健医療全体が軽視されているのです。世界銀行の最近の報告書によれば、COVID-19で保健支出が膨張した後で、現在では各国が保健支出を大幅に削減しています。2019年から2021年にかけて、政府の保健支出は25%増加しましたが、2022年にはわずか13%の増加に落ち込んでいます。さらに、同会期で開催される他の2つのハイレベル会合は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに関するものと、パンデミックの予防、準備、対応に関するもので、指導者の関心を引く可能性がはるかに高いでしょう。これらの会議が調整されているという実感はほとんどありません。これでは、結束が必要なときにそれぞれバラバラとなる危険性があるだけでなく、結核に関する行動への呼びかけも、喧騒の中で見失われてしまう可能性すらあります。

 では、結核問題の提唱者、国家プログラム、ドナーは、どこに力を注ぐべきなのでしょうか。8月19日、アヌラグ・バルガヴァ(Anurag Bhargava)氏らは、RATIONS研究の結果をLancet誌に発表しました。彼らは、インドにおける結核患者の家庭内接触者に食糧配給パックを提供することで、罹患率を39~48%減少させることができることを示しました。栄養不足は結核の危険因子としてよく知られていますが、それにしても驚くべき結果です。プラナイ・シンハとサウラブ・メータは、食品を「我々がすでに持っている結核ワクチン」と表現しています。この研究結果は、栄養不足と結核が広まっている国で結核を予防する重要な方法として、政策立案者が取り上げるべきであり、世界的な食糧不足が深刻な中、広範な健康のために食糧システムをうまく活用する手段も含まれています。しかし、その直接的な応用にとどまらず、この研究はグローバルヘルスにとって有益な教訓を与えてくれているのです。

 RATIONSは、健康の根本にある決定要因というものが、重要な臨床成績に明白な効果を生む対策と親和性があることを示しています。栄養、貧困、不平等といった問題は、常日頃から認識されているのですが、具体的な目標を定めて行動することはめったにないのです。これらの問題は大きすぎたり、漠然としすぎたり、直接取り組むには難しすぎると考えられて、プログラムやドナーにとって魅力があるとは思えないのです。RATIONSはそのような考え方を正す重要なものとなっています。これらの要因は、もはや研究や介入にとって難題であるとは考えられません。食糧の提供は簡単で安価であり、結核以外の幅広い課題にも役立つでしょう。RATIONSは、その教訓を生かすことができれば、結核対策を前進させるうえでこれまでとは異なる、希望の持てる方法を示しているのです。

原文記事:Tuberculosis: a different way of doing things - The Lancet

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