熱波と死因
気候変動によって、極度の熱波、山火事、洪水が発生する頻度が大幅に高まり、深刻化しています。しかし、健康への影響は過小評価されています。多くの国で、国民を守るための十分な計画、適応、そしてデータに基づく情報の活用がうまく行っていません。今年はこれまで、インド、パキスタン、米国、中国、ヨーロッパで、極度の危険な熱波が発生し、インフラが損傷し、緊急サービスが影響を受けました。WHOによると、スペインとポルトガルだけで、少なくとも1700人が死亡しました。
猛暑は熱射病を引き起こし、その影響は臨床医や一般市民が最も認識しています。しかし、熱中症による死亡のほとんどは、心臓血管系の疾患によるものです。心臓は血圧を維持しながら皮膚を冷却するために、心拍出量を増加させる必要があり、これは、たとえ体温が高くなくても、心臓の負担につながります。呼吸器疾患、腎臓疾患、不安、暴力、薬物使用の増加も、暑さの上昇と関連しており、死産、早産、低体重児のリスクも増加します。山火事に関する研究では、子どもの死亡率、呼吸器疾患、がんとの関連性が定量的に示されています。多くの国では気候否定論に加えて、政治的取り組みの不足のために、どのように熱ストレスの増加を防ぐかという情報が、一般市民に届いていません。政治家は猛暑の健康リスクを軽視してきたのです。影響力のある組織やメディアは、時代遅れの非科学的なアドバイスを流布してきたのです。
2021年にランセット誌は、自己水浴、衣服や足を水に浸す、扇風機を第一にした冷却戦略の使用など、熱的不快感と心血管負担の両方を軽減できる、個人でできる方法を紹介していますが、米国疾病対策センターからのアドバイスでは触れられていません。冷たい水を飲むことは、熱中症や緊張のリスクを減らすことができますが、体温への影響はほとんどありません。保健医療従事者や諸機関は、暑さの危険と身を守ることについて一般市民に啓発することが必要です。都市部のヒートアイランド現象に関するデータの増加や、南半球の研究により、危険な暑さが有色人種や貧困層に影響がしわ寄せされることが明らかになっています。特に屋外労働者を危険な状態から守るための法改正が急務です。
米国国立衛生研究所などは、気候関連の研究を行っています。しかし、政治との連携がないため、研究を政策に活かすことができていません。2022年の熱波と山火事の発生は予測されていましたが、リスク軽減策は驚くほど不十分でした。熱関連死の増加を抑えるのは、世界的な政治的行動のみなのです。
原文記事:2022 heatwaves: a failure to proactively manage the risks - The Lancet