サル痘と緊急事態宣言

WHOは7月23日、今回のサル痘の発生を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」と宣言しました。7回目の宣言でしたが、緊急委員会の過半数の意見に反して行われたのは初めてのケースでした(9人反対し、6人賛成した)。WHOは「私たちがほとんど理解していない新しい感染様式によって、急速に世界中に広がっており、国際保健規則の基準を満たしている」としています。今年に入ってからでも7月22日までに、75カ国から1,6016人の患者が報告されています。コンゴ民主共和国のようにサル痘が流行しているところでは、いろいろな人口集団で新たに大規模な地域的流行が報告されています。西アフリカと中央アフリカ以外では、今のところ、男性と性交渉をする男性(MSM)に感染が集中しています。皮膚病変は、主に性器または肛門周囲に認められます。感染は皮膚と皮膚の接触で起こることが知られていますが、患者の精液からサル痘DNAが検出されており、それが増殖能を有するウイルスであるかどうかはまだ不明です。

 COVID-19の経験は、各国が対策を講じるのに役立つかもしれませんが、多くの医療システムはすでに限界に達しています。国民がパンデミックとその対策について語ることに疲弊している危険性もあります。サル痘に関する誤った情報はすでに出回り始めています。サル痘はCOVID-19ではありません。今回のサル痘は、主に軽度の自己限定性疾患を引き起こしますが、患者は主に痛みのために入院しています。こうした点を広く理解してもらうことが、国民の不安を払拭する上で重要です。

 流行開始以来、多くのMSMが関与しています。同性愛を犯罪とし、LGBTIが存在する共同体や社会を疎外する国は、患者の健康と感染抑制の可能性の両方を危険にさらします。スティグマ(社会的烙印)や差別と闘う必要があります。猿痘をMSM人口集団の病気とするのは間違っているのです。

COVID-19をきっかけとした対応の迅速化を、サル痘にも利用すべきです。診断検査が不十分なため、症例の特定ができない国もあります。天然痘の治療のために製造されたTecovirimatは、欧州の規制当局からサル痘の認可を受けていますが、米国FDAからはまだ認可されていません。サル痘ワクチン(欧州ではImvanex、米国ではJynneosとして販売)も承認されていますが、治療薬もワクチンも供給が極めて限られています。WHOは、COVID-19ワクチンのような世界的不公平を回避する必要があります。エボラ出血熱やジカ熱のように、サル痘が世界的に注目されるのは、高所得の国々で発生したときだけです。時期を逸しないよう、世界的な取り組みが必要なのです。

原文記事:Monkeypox: a global wake-up call - The Lancet

関連リンク:サル痘 | 公益社団法人 日本WHO協会 (japan-who.or.jp)

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