COP28の健康Day           容易ではない道のり

ランセット誌は、気候変動は健康に影響を及ぼすものとして、長期に亘るキャンペーンを行ってきました。そのことから、12月3日にドバイで開催されたCOP28で、COPサミットにおける初めての健康デーを喜ばしいものと受け止めています。健康と気候変動が関係していることを示すために発案されたこの日は、変動の緩和と変動への適応の二つのプログラムに10億米ドルの資金を提供し、保健システムの変革、健康の環境決定要因への対応、地域社会と弱い立場の人々を護ることに重点が置かれました。この日は、気候変動に対応する医療システムを準備し、各国政府が国民の健康を守る必要性を認識することを明確な目的として、124カ国が署名した「気候変動と健康に関する新しい宣言」で締めくくられました。

 今年のカウントダウン報告書でも強調されているように、生命を脅かす高温が頻繁に発生するようになり、媒介動物に適した気候が増えたために命を脅かす感染症の拡散が増加し、天候の極端な変化が何百万もの人々の間に食糧や住居の不安を引き起こしています。世界の子どもたちの約半数は、気候変動の影響を受ける危険性が高いとされる国に住んでいます。気候変動が健康問題であるという事実は、これまで過小評価されてきたのです。

 宣言に盛り込まれたとおりの前進を達成することは容易なことはありませんが、現在の排出量削減の約束では、破滅的な結果を防ぐのに十分でないことを考えると、今は自己満足に浸っている時ではないと言えます。気候に関して政治が怠慢であったことは長い間不満を強いるものでしたが、健全な民主主義国家でさえポピュリスト的指導者たちは、十分とは言えない進展についてさえ次第に批判的になっています。

最近のオランダ選挙で勝利したゲルト・ウィルダースは、「気候は常に変化している」「現在起きつつあることは人間の行動とは無関係だ」という主張を政策綱領に掲げています。ウィルダース党の公約には、「気候法、(世界)気候協定、その他すべての気候変動対策はシュレッダーに直行する」と書かれています。アルゼンチンの次期大統領ハビエル・ミレイは、気候変動は「社会主義者のもう一つの嘘」だと言います。最近アメリカで行われた共和党の党首討論ではすべての候補者が、気候変動が人間の行動の結果であることを認めようとしませんでした。ブラジルのボルソナロやアメリカのトランプは、環境保護を後退させることを主要政策として掲げています。つい最近まで、このような立場は議論の片隅に追いやられていたのですが、気候変動の否定はポピュリストの議論として成功を収めつつあります。今後数十年の間に、気候変動は何百万人もの気候変動難民を生み出すと予測されています。彼らは、気候変動に対する不作為にとどまらず、基本的権利と尊厳を否定するポピュリスト政権による移民規制の犠牲者でもあるのです。2024年には、英国、米国、メキシコ、インドネシア、パキスタン、インドなどで重要な選挙が行われます。ポピュリズムは抑えられるでしょうか?

  COP28は、決して気候変動否定から影響を受けすにいることはありません。ドバイでの開催は、世界最大の化石燃料生産国のひとつであるドバイから、溝を越えて重要な譲歩を引き出すための交渉の場となる可能性もありました。それなのに、この議論の場はアラブ首長国連邦に新たな化石燃料プロジェクトを推進する機会を与えようとしているのです。アラブ首長国連邦は今年のCOP28議長国であり、国営石油会社AdnocのCEOでもあるスルタン・アル・ジャベール博士が主導しています。彼は最近、化石燃料の段階的廃止の必要性を示す科学的根拠を否定しています。この発言は月曜日の記者会見で撤回されましたが、事実としてアドノック社は化石燃料の生産を拡大しているのです。

 宣言は完璧ではありません。温室効果ガス排出の大幅な、迅速かつ持続的な削減の必要性に言及しているものの、化石燃料についてはまったく触れてはいません。これは緩和よりも適応に重点を置いているのです。公約は立派ですが、大まかで具体的な絵は描かれていません。Lancet誌が取材した時点では、世界で最も人口の多い国であるインドは、気候変動の害を最も深刻に経験するであろうにもかかわらず、宣言に署名していませんでした。

 

しかし、この「健康の日」を契機に、化石燃料を段階的に削減し、炭素排出を緩和し、変化する現実に社会を速やかに適応させることができるという希望は残っています。気候変動と健康が結びついているという科学的根拠は明らかです。アル・ジャベールやウィルダースのような指導者たちは、もはやそれを知らないと主張することはできません。今後の気候変動交渉は、健康と福祉を中心に据える必要があり、その成功と失敗は、人間を中心とする観点から判断されることになるでしょう。ジョン・ケリー米国気候特使がドバイで発言したように、「気候危機の進展は、回避された気温上昇で測るのではなく、救われた命で測るべき」として。

原文記事:Health Day at COP28: a hard-won (partial) gain - The Lancet

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