医学と殺戮への加担
ランセット委員会が初めて医学の歴史でもある「ナチ医学」に切り込みました。11月9日に発表された報告書『医学、ナチズム、ホロコーストに関するランセット委員会:歴史的証拠、今日への示唆、明日への教訓』は、ナチ医学の歴史と、いわゆる最終解決すなわちドイツ政府によるヨーロッパ・ユダヤ人絶滅計におけるナチ医学の中心的役割に関する最新の学術的知見となっています。
600万人のユダヤ人が、25万~50万人のロマ人、シンティ人、同性愛者、政治犯などを含めて殺害されました。委員会は、「戦後数十年にわたり、医学界がドイツと世界のこの歴史に関わることを拒んできたこと、そしてナチス政権と医学の関係についての神話が長く続いてきたこと」のために、この報告書が必要であると考えます。委員会はまた、この歴史をすべての保健教育カリキュラムの中で教えるよう求めています。なぜ医療者が殺人者になるのか?強制収容所の犠牲者に、どうして医療専門家が凶悪な実験を行えたのか?報告書が丹念に描写している恐ろしい真実とは、ドイツの医療専門家が、遺伝的に劣っているとみなす集団に対して、反ユダヤ主義、人種差別主義、優生学に基づくイデオロギーを信奉していたということなのです。
1933年、ナチス・ドイツはドイツの医師たちが起案した強制不妊手術を立法化し、31万~35万人の犠牲者が不妊手術を受けることになったのです。1939年から1945年の間に、少なくとも23万人の犠牲者が計画により殺害されました。その中には、ある計画で7000人から1万人の子供が殺害されたほか、身体的、精神的あるいは発達障害を持つ施設入所者を安楽死させるアクシオンT4計画によっても殺害されました。
委員会の報告書はまた、ナチス時代の医師の役割について、いくつかの神話を指摘しています。例えば、ヨーゼフ・メンゲレ博士のような極端な例は少数ではありませんでした。ドイツ人医師の半数以上がナチ党員だったのです。もう一つの神話は、ナチスの科学はいわゆる疑似科学であったというものです。しかし、ナチス・ドイツで行われた医学研究の相当な部分は科学的手法に基づいており、国際的な学術誌に発表されていました。報告書はまた、ゲットーではユダヤ人医療専門家の活動はほとんどなかったという神話も否定しています。ユダヤ人医師たちは、悲惨な状況にあっても、臨床現場を管理し、患者のケアにあたっていました。
この医学史の暗黒の章が、なぜ現代に影響を持つのでしょうか?ナチス医学の歴史は、将来の医療専門家たちが専門家としてのアイデンティティを育むのに役立つ、十分な事例を記録しています。医師は「個人と地域社会の生活を左右する強大な力」を持っている、と私たちは2019年に発表しました。ホロコーストの後、倫理的な人体研究を保証するためにニュルンベルク倫理綱領で初めて導入されたセーフガードをもってしても、いくら監視しても、すべての専門家の不正行為を止めることはできませんでした。すべての生物科学研究機関と専門職学会の指導者は、歴史を知った上での専門職としてのアイデンティティ形成が、保健教育においては不可欠であるとする必要があります。
残念なことに、ナチス医学の時代からやり残したことで取り組むべきことがまだあります。大学や生物科学研究機関には遺骨が保存されています。これらの機関は、ナチスの医療犯罪の犠牲者を積極的に特定し、追悼し、人権侵害との関連を理解する研究を開始すべきと考えます。それはこれらの研究機関にできる最低限のことなのです。医師の最悪の行動にスポットライトを当てることで、希望が生まれます。この委員会は、すべての医療専門家にとって、真実と和解が可能であることを示す一つの事例です。ドイツ人の委員は、ナチス時代の両親の子であったり、旧ナチス占領下にあった国々の出身者であったりし、米国とイスラエルのユダヤ人の委員は、ホロコースト犠牲者や生存者の子や孫であったりするのですが、肩を並べてこの歴史と、今日の医療専門職に対するそれが持つ意味と格闘してきました。国際的な医学生諮問委員会は、医学、ナチズム、ホロコーストの関連性について新たな視点を提供し、未来志向で希望の持てる存在感を示しました。
ナチス時代の医学は、医学界に未来永劫消えることのない汚点を残しました。戦争犯罪や人道に対する罪に進んで加担した23人のドイツ人医師と管理者を起訴したニュルンベルク医学裁判から77年、医療専門職は今日、残虐行為から学生を守り、報告し、組織的な人種差別や反ユダヤ主義に対処し、非倫理的な研究から身を守り、虐待医師を告発し、このようなことが二度と起こらないようにするための道徳的バックボーンを備えなければならないのです。