ヒト胚研究:社会的合意の再構築

過去10年間にヒト胚学の分野は大きな躍進を遂げました。2016年、研究者たちは初めてヒト胚を14日間培養することに成功したのです。それまでの技術では7日間が限度でした。そして数カ月前には、14日目までのヒト胚発生を模倣したモデルを幹細胞から作成できることが示されました。このモデルはある意味単純化されたものですが、ヒト胚を研究用に使用する上での代替の選択肢となり得るものです。このような技術革新は、ヒト発生の初期段階に関する新たな知見をもたらし、健康を改善する可能性がある一方で、新たな倫理的問題を提起し、現行の法律や規制の限界を試すものでもあります。これらの利点と欠点をどのように克服するかは、広く社会に投げかけられた問いであり、その答えの必要性はますます高まっています。

培養技術の向上と胚発生の正確なモデルの両方が、重要な医療ニーズに応える助けとなる可能性があります。体外受精(IVF)の成功率は過去40年間で向上してきていますが、約3回に1回は失敗しており、その原因の多くは着床不全です。初期の発育過程をよりよく理解することで、体外受精の方法が改善され、失敗が減る可能性があります。同様に、超早期流産の原因も不明であり、発生初期に確立される多くの先天性欠損症の危険因子や促進因子も完全には解明されていません。これらの条件に関する知識がさらに深まり、管理および予防のためのより良い技術が将来確立されれば、世界中の何百万もの家族に希望をもたらすでしょう。

 しかし、このような進展は不安をかき立てるものでもあります。特に、胚モデルの開発に対して規制が遅れているようです。英国では、培養ヒト胚の研究は14日を過ぎると許可されていませんが(そして世界の多くは、この種の問題に関して英国からヒントを得ている)、上記のモデルはこの規制の対象外となるようです。このようなモデルの科学が進歩するにつれて、胚モデルが胚になるかどうか、そして関連する法的位置づけの問題が緊急性を帯びてきます。ヒト胚培養の14日を超える可能性についても、科学者、倫理学者、哲学者の間で議論が巻き起こっています。14日間という制限があるため、14日目から28日目までのヒトの妊娠についてはほとんど分かっていません。しかし、識者たちは、法律がひとつ変わるだけで、さらに望ましくない、非倫理的変化がはるかに容易になるという、滑りやすい坂道を恐れているのです。胚がいつ個体になるかという問題もまだ論争中です。2021年、国際幹細胞学会は、14日ルールについて人々がどのように考えるかを理解するために、有意義な市民参加を呼びかけました。英国はこの呼びかけに応えた最初の国で、14日ルールの延長の可能性をめぐる市民の期待と不安を推し量るための公開討論を実施しました。Human Developmental Biology InitiativeとUK Research and Innovation Sciencewiseの委託で行われたこの公開討論の報告書は、何らかの形で延長することに対して国民の全体的な支持があることが示しています。

ほとんどの参加者にとって、医療と健康にとって潜在的なメリットがあるという議論に反論の余地はありませんでした。興味深いことに、科学技術の変化を考えると、14日というルールが30年以上も変わっていないことに、軽い驚きと失望感がありました。しかし、いわゆるデザイナー・ベビーの開発に対する倫理的な反対意見も強くありました。14日間ルールの変更を検討するには、研究が継続的にしっかりとした審査と監視を受ける必要があること、広く、深いしっかりとした議論が必要であること、意思決定プロセスから一般市民が置き去りにされないこと、といった条件付きとなりました。40年前、ヒト胚の研究に対する規制メカニズムは存在しませんでした。しかし、1978年に体外受精によって最初の子どもが誕生したときは、発生学や生殖医学における他の発展とともに、今日と同じように興奮と不安の両方を引き起こしたのです。1982年、ウォーノック男爵夫人が率いる「ヒト受精および胚発生に関する調査委員会」が設立されるきっかけとなりました。

 

この委員会は、責任を持てる将来への道筋を見出すことを任務とし、その結果、14日ルールが提案され、英国ヒト受精・胚発生法(Human Fertilisation and Embryology Act 1990)が成立しました。この法律は過去30年間、重要な科学を責任と透明性をもって、より広い社会的配慮と同意のもとに実施する健全な基盤をなし、その役割を果たしてきたのです。その結果、医学が強化され、ヒトの初期発生に関する研究に対する社会の信頼が守られてきたのです。近年の発生学の進歩、そしてそれがもたらした新たな道徳的、倫理的、倫理的ジレンマを考えると、それにふさわしい審理を行う時期にきていると言えるでしょう。

原文記事:Human embryo research: re-forming societal agreement - The Lancet

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