女性の健康を広い視野で考える
7月17日に開催された男女平等を訴えるイベント「2023 Women Deliver Conference」で、国連Womenのシマ・バフース事務局長は、「一層明るく、持続可能で、平等で、平和な地球でありたいという私たちの希望と願望は、一本の糸にぶら下がっているようだ」と述べました。この警告は、多くの国々で女性の権利に対する容赦ない迫害が行われているなかで発せられました。タリバンが女性や10代の少女の公的生活への参加を禁止しているアフガニスタンや、妊娠中絶がますます制限されているアメリカなど、進歩は停滞し、場合によっては逆行さえしているのです。地政学的緊張、気候変動による緊急事態、COVID-19以降の世界経済危機は、ジェンダー平等の達成と社会における女性の地位向上に新たな困難を加えています。女性の価値が十分に認識されていないことは、女性の健康に対する時代錯誤の考え方、見かたを反映しています。その結果、女性の健康を見守る一般的な指標は、女性のニーズのほんの一部しか表していません。今こそ女性の健康についての考え方を改める時になっています。
歴史的に、リプロダクティブ・ヘルスを測定する指標を用いることは重要であり、実質的な健康増進の達成に役立ってきました。例えば、妊産婦死亡率の削減は、ミレニアム開発目標と、それに続く持続可能な開発目標の重要な目標でした。この目標は、2000年から2020年の間に、出産10万件あたりの妊産婦死亡数を約3分の1に減らすのに貢献しました。女性が社会で適切に生殖の役割を果たすことに焦点を当てた健康指標(熟練者が立ち会う出産、生殖の自律性、妊産婦死亡率など)は、学術研究や世界的な報告書で広く使われてきました。しかし、このような成果に重きを置くことは、社会における女性の役割に関する時代遅れで弊害のある固定観念を助長し、女性の多様な健康全体を軽視する危険性がある。
心血管疾患、がん、精神障害を含む女性の主要な疾病原因は、男性の不健康の原因でもあるのですが、その根底にある女性特有の危険因子(生物学的および社会経済的なもの)が異なります。このような危険因子は、男女平等に影響するものほどには十分に理解されていないため、適切に評価・モニタリングに使われていません。例えば、女性の生涯心血管系リスクは、心理社会的・社会経済的危険因子と並んで、早期閉経、早産、妊娠高血圧症候群などによって増加する傾向がありますが、その詳細は十分に分かっていません。がんにおいては、肥満や過体重は予防可能な危険因子ですが、多くの国の女性たちに増加しています。精神衛生の分野では、不安とうつ病は男性よりも女性の方が急速に増加しています。性(およびジェンダー)が異なれば必要なことも異なるということを認識することは、予防、モニタリング、評価、ケアにとって重要なことです。
女性の健康全領域に亘ってのデータは乏しい状況です。女性の健康をまず定義し、次に疾病を診断し、国レベルで状態を追跡し、疫学研究を通じてデータを世界共通の知見としています。その結果、私たちの理解に重大なギャップが内在し、それが研究デザイン、投資の決定、パイプラインの優先順位に影響を与え、世界の女性の健康が脅かすことにつながっています。
女性の疾病について、女性特異的危険因子を促進する病態生理と社会経済的メカニズムを理解するための研究が必要なのです。そして、世界的な健康指標は、女性に最も蔓延している疾病の危険因子を反映する必要があります。これらは、男女別(および性差別)に体系的に収集されるべきであり、高血圧、糖尿病、肥満、食事、生活習慣、喫煙に関するデータを含まなければならないことは明らかです。
過去1世紀、女性の権利に関する多くの世界的な宣言や条約が生まれましたが、その多くは失敗に終わっています。その理由の一つは、女性の健康を促進する取り組みが断片的であり、体系的・構造的な健康格差に取り組む官民を横断する枠組みが存在しなかったからです。次世代避妊薬から乳がん治療の新薬に至るまで、医学と医療技術の進歩は、女性と女児の健康に応える新たな機会を生んでいます。このような機会を活用するためには、ジェンダー不平等の多様な要因を認識し、女性の健康とは何かという、より広範で全体的な視野に基づいて、測定し、理解し、対応するための努力を重ねることが必要です。
原文記事:A broader vision for women's health - The Lancet
緊急避妊 | 公益社団法人 日本WHO協会 (japan-who.or.jp)
新生児:生存と福祉の改善 | 公益社団法人 日本WHO協会 (japan-who.or.jp)