臓器提供:スペインのモデル
末期の臓器不全患者にとって、移植は唯一の救命治療であることが多く、透析などの負担の大きい技術に頼っている患者の生活を大きく変えることができます。しかし、世界的に臓器が不足しています。世界臓器移植のモニタリングでは、世界の移植需要の10%しか満たされておらず、大きな格差があります。米国やスペインでは人口100万人当たり130件以上の移植が行われていますが、インドでは12件にとどまっています。多くの国々(アフリカの大半を含む)ではデータが入手できず、また、多くの国々では確立された移植プログラムがありません。この不足により、犯罪組織が弱者を食い物にする違法な臓器売買市場が生まれています。
この問題に対処するため、2024年5月、スペインが主導した臓器移植の供給拡大、倫理的な解決、監視に関する新たな決議が世界保健総会で承認されました。 スペインがこの決議に関与したことは偶然ではありません。同国は臓器移植の分野で長年にわたり国際的なリーダーシップを発揮しており、2023年の死亡ドナー率は世界最高(49.4 pmp)です。スペインの移植システムの成功は、3つの要素に支えられています。すなわち、強固な法制度の枠組み、臨床面での強力なリーダーシップ、そして国家移植機構(ONT)が監督する高度に組織化されたネットワーク支援システムです。ONTの設立により、死亡者からの臓器提供活動は10年足らずで倍増しました。重要なのは、この成功は強力な社会政治的支援なしにはあり得なかったということです。このモデルは、他の国々にとっても貴重な教訓となるでしょう。
スペインでは、誰もが臓器提供者とされますが、最終的な決定権は故人の家族にあります。オプトアウト(意思撤回)方式を導入している国もありますが、必ずしも臓器提供に対する前向きな姿勢につながっているわけではありません(例えば、スペインでは10世帯中8世帯が臓器提供に同意していますが、英国では10世帯中6世帯である)。「オプトアウト」モデルへの単純な移行だけでは、臓器提供の増加には十分ではありません。1979年に制定されたスペインの臓器移植法は、地域を越えた透明性と公平な臓器分配を保証しています。この法律は臨床委員会とONTの助言に基づき定期的に更新されており、提供基準を拡大して80歳以上の人や標準外のリスクドナーからの臓器利用を認めています。多くの国では実施されていない「心肺停止後の臓器提供」は、スペインにおける臓器提供拡大の主要な手段のひとつであり、同国における臓器提供活動全体の45%を占めています。
臨床的なリーダーシップは、煩雑なシステムを円滑に運営するために不可欠です。スペインでは、病院移植コーディネーター(通常は集中治療室の医師)がその役割を担っています。彼らは患者、医療従事者、家族をよく知っており、地域コーディネーターの支援を受け、ONTが全国的な移植を監督する体制のもと、ドナー候補者の特定、臓器提供の促進、移植までの待機期間の短縮に取り組んでいます。 病院移植コーディネーターは、家族の心理的サポートを行うための十分な訓練を受けており、移植に関わるスタッフには継続的なトレーニングを提供しています。 臓器提供は多くの人々にとってデリケートな問題であり、家族にとっては多くの不安や誤解を抱えながら難しい決断を迫られる場合も少なくありません。
ONTは透明性の高いコミュニケーションと一般市民への教育にも責任を負っており、臓器提供に対する認識を高め、文化や社会の意識形成を支援しています。 臓器提供や脳死、心停止といった概念は慎重な説明を必要とします。 家族や友人と臓器提供について話し合ったことのある人々は、提供に同意する可能性が高くなります。 ONTはメディアと協力し、前向きな個人的な体験談や科学の進歩に関する報道を通じて、臓器提供に対する認識を高める活動を行っています。患者団体は重要な支援者として、ONTのメッセージに対する信頼を築き、そのメッセージを広めるのに役立っています。臓器の割り当てと移植に関する倫理性の維持に失敗すれば、ドイツにおける移植データの改ざんスキャンダルが示したように、そのシステムに対する信頼は壊滅的な打撃を受けることになります。
現在、WHOは臓器提供と移植に関する世界戦略の策定に取り組んでいます。臓器移植のような、究極的には第三者の利他意思に依存する分野において、臓器提供を促進することは難しいように思えるかもしれません。特に、臓器提供の決定は多くの人々にとって、文化、倫理、宗教、個人の問題として深く関わるからです。スペインのモデルは、信頼が極めて重要であることを示しています。適切に設計され、十分なリソースが確保されたシステムが導入されれば、人々は連帯感をもって対応し、臓器提供が一般的となり、他者の健康に役立つ文化的な環境の醸成に貢献します。
原文記事:Organ donation: lessons from the Spanish model - The Lancet