インドの選挙:データと透明性

今月末、インド国民は史上最大の選挙で投票に向かいます。世界人口の10%以上にあたる9億7000万人が、4月19日から6月4日の間に行われる2024年のロクサバ(国民の院)議会選挙に投票するのです。世論調査では、ヒンドゥー教ナショナリストであるバラティヤ・ジャナタ党のナレンドラ・モディ首相とその連立政権が、3期連続5年の任期を勝ち取るだろうと見られています。モディ首相のリーダーシップの下で、インドは不平等ながらも目覚ましい好景気に沸いています。経済規模は3~7兆米ドルに達し、今後3年で日本とドイツを抜いて世界第3位の経済大国になると予想されています。しかし、健康に関しては、モディ政権は全く別の話になります。

今週の『ワールド・レポート』にあるように、モディ政権下の医療は芳しくありません。全体として、保健医療に対する政府支出は減少し、現在では国内総生産の1~2%というひどい水準にとどまっています。医療費の自己負担額は依然として極めて高く、プライマリー・ヘルスケアと国民皆保険を軸とする構想は、今のところ最も必要としている人々にサービスが届いていないのです。医療の普及と質の両面において根強い不公平さは、よく認識されているところです。しかし、インドが直面している大きな障害は、多くのインド人が気づいていないかもしれないのですが、医療のデータとデータの透明性に欠けているところにあります。

正確で最新のデータは、保健政策、計画、管理にとって不可欠なものですが、インドにおけるそうしたデータの収集と公表は頓挫し、障害に当たっています。2021年の国勢調査はCOVID-19の流行により延期され、150年ぶりに、インドの国勢と国民に関して網羅する公式のデータがないまま丸10年が経過しています。次の国勢調査は2024年に電子調査を実施するという公約は、まだ果たされていません。

国勢調査は、国や州レベルのすべての健康調査の基礎にもなっています。たとえば、全国標本調査機関による罹患率や私費負担の定点調査は旧いもので、新しく実施する予定もありません。出生と死亡に関するインドで最も信頼できるデータとなる2021年の人口標本登録システムの調査報告が遅れている理由も、完了した貧困調査が公開されていない理由も示されていません。憂慮すべきことに、インドで最も信頼できるデータ源のひとつである全国家族健康調査を率いたK・S・ジェイムズ人口科学研究所長が辞任に追い込まれました。厚生省は、その理由を不正採用によるものだとしているのですが、メディアの報道は、ジェームズ所長の解任は、政府にとって不利な調査結果と関係があると指摘しています。

もうひとつの争点は、COVID-19パンデミックによって死亡したのは48万人に留まるというインドの主張が信憑性に欠けることです。WHOや他の推計ではその6〜8倍(超過死亡を含め、そのほとんどはCOVID-19によるものであろう)となっています。未発表の2021年市民登録報告書は、政府の推計を確認するか反論するのに役立つでしょう。最新の標本登録システム調査とMillion Death Studyの結果が公表されれば、2020~21年における死亡率の変化に関する大きな疑問を解決することができます。また、がん、自殺、子どもの死亡率の継続的な低下など、良いニュースである可能性のある最新の証拠も得られるでしょう。悲しいことに、これらの研究は、発表されるとしても選挙後になりそうです。なぜ政府は健康状態の実態を明らかにすることを恐れるのでしょうか?そしてもっと重要なことは、データがないのに政府はどうやって進捗を測るつもりなのか、ということです。

最近の信頼できるデータが利用できなければ、民主的な選択肢は限られたものになってしまいます。政府の基幹政策は、独立から100年後の2047年までにインドを先進国にするViksit Bharat 2047計画です。インド政府が3期目の政権を獲得した場合、このビジョンの達成は製造業ではなく、人とサービスによって実現するものです。したがって、インドは医療と教育に焦点を合わせ、投資しなければなりません。そしてこれは、強固でオープンなデータによってのみ可能となるのです。それはすべての人の利益であり、政治化されるべきではないのです。インドには、1500年前にゼロの概念の確立に貢献し、今日の医薬品やワクチンの製造における革新的な開発まで、豊かな数学と科学の歴史を持っています。インドがデータでリードし、その利用を恐れないことを目指すのはインド自身にとってふさわしいものです。データを欠いたまま曖昧にしようとする組織的な企ては、インド国民に十分な情報が提供されないことなのです。

原文記事:India's elections: why data and transparency matter - The Lancet

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