英国の重度精神疾患:弱者への思いやり

社会が最も弱い立場の人々をどのように扱うかで判断するのであれば、英国は不快な自国の真実に直面しています。精神衛生について啓蒙キャンペーンが盛んに行われているにもかかわらず、重度の精神病に対する差別的な態度は依然として蔓延しているのです。2023年6月、妄想型統合失調症と診断されていたヴァルド・カロケインがノッティンガムで3人を刺殺しました。彼は責任能力の減退を理由に過失致死罪を認め、入院命令を受けました。この事件は深く悲劇的なものです。しかし、保守的な報道の多くは、カロケインの手当受給資格、彼の民族性、刑の軽重に固執しています。精神医療にたいする偏見と差別をなくすため、ランセット委員会が強調しているように、メディアによる重度の精神疾患を悪魔的に描写することは、深刻なダメージを与えるものです。それはまた、英国の精神衛生の医療サービスが危機に瀕しているという懸念すべき現実からも目をそらすことになるのです。

重度の精神病患者が社会に与えるリスクを扇動的に描く物語は誤解を招きます。患者は加害者であるよりも、暴力の被害者であるケースの方が多く、殺人は極めてまれなことです。事実、暴力的になるかどうかの予測が困難なほどまれであり、暴力リスク評価ツールには限界があります。英国の精神衛生法の中には、有効性の証拠に乏しいばかりか、明らかに効果がないものもあります。2007年精神衛生法の一環としてイングランドとウェールズに導入された地域治療令は、患者の地域治療を強制、促進するものでした。それが再入院や病床日数の減少につながらないことは、豊富なデータによって明らかになっています。特にOCTET試験では、「患者の自由を大幅に制限することを正当化できるような、入院全体の減少を裏付けるものは何もなかった」とされています。

政策決定者はエビデンスを重視しているのでしょうか?2018年には、精神衛生法2007によって、特に少数民族の人々の拘禁率の上昇が懸念される中で、精神衛生法2007の近代化についての独立レビューが発表されました。2022年には同法の下で5万人以上が拘束される中、2023年に英国政府が同法の改革法案を棚上げにしたことは、精神医療界にとって大きな打撃となりました。時代遅れの法律は、重度の精神疾患を持つ人々の抱える多くの困難をさらに複雑なものとしています。重度の精神疾患を持つ人々は、一般の人々よりも20年早く死亡する率が高く、COVID-19の大流行時には5倍死亡率が高かくなりました。英国は、このような大きな健康の不公平に対処するために行動しなければなりません。

WHOは、急性期、入院患者、地域社会のあらゆる場面で、患者や医療従事者に恩恵をもたらすことができる、人を中心とした権利に基づく精神医療への取り組みを提唱しています。しかし、このようなアプローチは、深刻な資源不足の中では不可能なものです。エビデンスに基づいた戦略なしに、投資だけを行っても無駄になります。精神保健衛生サービスへの支出が増加しているにもかかわらず、国民保健サービス(NHS)の長期計画が「2023/24年までに利用性を拡大し、タイムリーで質の高い精神衛生の支援を実現する」という野心を達成したという者はほとんどいません。現実は、過剰な官僚主義、継続的ケアの崩壊、福祉を犠牲にした高い処理能力目標でした。うなぎ上りの治療の需要は、1800万人以上の人々が精神保健治療を待っていることを意味し、そのため慢性的な病床不足は、最大20%の利益率を上げているとする民間病院に現在、NHSが年間20億ポンドを支払うという結果になっています。開業医は、患者を助けようとするには、時間も能力もなく、意欲を喪失させるような医療に向き合っています。地域精神保健の中核は、地域精神科看護師です。しかし、精神保健看護は危機的状況にあり、労働力不足、役割に対する誤解、キャリアアップの機会がほとんどありません。

患者は往々にして孤独のうちに脈絡のないケアを経験し、永続的な共感的関係を築けていません。私たちのシステムは、無関心を助長するものなのです。ケアの失敗の責任は精神医療サービスだけにあるのでしょうか?長年の緊縮財政、COVID-19の大流行、経済危機は、特に社会的弱者の支援ネットワークを壊滅させました。地域社会や個人の思いやりは、大きな変化をもたらすことができるものです。しかし、英国の総選挙が近づいており、政府の責任を問うチャンスとなります。私たちは、王立精神科医協会(Royal College of Psychiatrists)の呼びかけに賛同し、すべての政党が公約として精神衛生を優先するよう求めます。私たちは、誰もケアされないまま放置されることのないよう、信頼できる根拠に基づいた精神保健衛生のサービスを必要としているのです。

原文記事:Severe mental illness in the UK: a crisis of compassion - The Lancet

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