研究の大規模不正
研究不正の疑惑が高まっているということが言われています。耳目を引く最近のいくつかの事例を見ますと、確かにそのように考えられます。ダナファーバーがん研究所の科学者たちが画像操作について告発したことによって、最近何本かの論文撤回がなされました。ネイチャー誌の分析によると、2023年には14,000本以上の論文が撤回され、その数は過去最多となりました。8,000本以上がオープンアクセス出版社であるヒンダウィに関連したもので、その所有者であるワイリーが、ペーパーミル、査読者ミル、不正な特集号を含む「大規模な組織的操作」と呼んでいるものです。不正行為における人工知能の役割は、一層の懸念材料となっています。研究不正は今に始まったことではありませんが、その規模と範囲の拡大は科学活動全体に対する脅威となっています。研究不正は、研究の無駄を助長するだけでなく、エビデンスの根底を歪め、患者に実害をもたらします。これらの事件は、科学に対する信頼がもろいことを改めて浮き彫りにしました。編集者や出版社も含め、研究のエコシステムにおけるすべての主だったプレーヤーは、何が根本においてそうさせるのかを厳しく自らに問いかける必要があります。
研究の計画、実施、報告に責任を持つ個々の研究者は、不正行為に対しても責任を持つ必要があります。しかし、システム的な要因や逆インセンティブも大きな要因となっています。ほとんどの研究機関では、採用や昇進、終身在職権の付与を決定する際に、いまだに論文の発表数やジャーナルのインパクトファクターを研究の品質の指標として用いています。不祥事の申し立ては、評判の失墜を恐れるあまり、研究機関によって十分に調査されないことがあまりにも多いのです。他方、出版社は、品質の管理には十分な注意を払わないまま、出版点数の増加を成長ビジネスモデルの基盤としてますます利用するようになっています。ゲストエディターが監修した招待論文を掲載する特集号は、オープンアクセス論文を迅速に集める方法と考えられていました。しかし、ヒンダウィ社をはじめとする出版社は、こうした取り組みによって深刻な風評被害を被り、出版倫理委員会(COPE)が特集号に関する指針を議論するきっかけとなったのです。
このような一連の問題に対処する取り組みも行われてきました。研究評価に関する宣言(DORA)イニシアチブと、第7回世界研究公正会議(WCRI)の成果である香港原則は、研究機関の研究評価をより分かりやすい、品質主導のものにしようと試みるものでした。DORAは最近、研究評価に関する優れた組織的実践例を共有するためのオンラインリソース、Reformscapeを立ち上げました。このような変革は望ましいものとはいえ、実施するのは困難であり、研究機関のリーダーにとっては時間がかかるものです。優れた研究がどのようなものであるかという定義が変わるとしてもゆっくりとしか変わらないでしょう。
個々の研究不正の調査によって、いくつかの有名なケースが暴かれましたが、問題が少数の悪質な者に起因するものではないのと同様に、科学的記録全体を取り締まることだけに頼ることはできません。COPEは、必要な場合には撤回を行うことで、科学的記録の修正について編集者に依然として責任を負わせています。しかし、編集者は公正でタイムリーで徹底的な調査を行う機関に依存しています。全般的な編集と査読の評価では、深刻な不正行為を常に特定することはできません。中国政府はすべての大学に対し、2021年1月から2024年2月までのすべての撤回事例を理由とともに報告する期限を2月15日としましたが、中国政府がこの情報をどう扱うかは分かっていません。ペーパーミルの問題に取り組む国際的なグループであるUnited2Actは、5つの主要な行動分野(教育と啓発、出版後の訂正の改善、論文捏造に関する調査、信頼の指標の開発、関係者間の対話)をまとめた合意声明を発表しました。第8回WCRI(ギリシャ、アテネ、2024年6月2日〜5日)では、論文捏造、人工知能が研究の完全性に及ぼす影響について議論することになっています。ランセット誌では、投稿された研究の信頼性審査を強化する最善の方法について議論しています。
これらの取り組みはすべて、研究の完全性を脅かす新たな事態に対応するための価値ある取り組みです。しかし、もっとやるべきことがあります。すべての関係者は、逆インセンティブを生み出している自分たちの役割、質よりも量を推進する自分たちの動機、そしてもはや正しい方法で研究者に報い、支援することができないシステムから利益を得る自分たちのやり方を、正直かつ深く見つめる必要があります。要するに、科学者が生き残るだけでなく、繁栄する環境を作るための持続可能な解決策について、集団的かつ協力的に考える必要があるのです。
原文記事:Safeguarding research integrity - The Lancet
参考:「研究」の世界にあふれてきた不正な論文、paper millsとは | 英文校正と論文翻訳の医学英語総合サービス (med-english.com)