ヒトゲノム編集:世界的コンセンサスに向けて

2018年、香港で開催された「第2回ヒトゲノム編集国際サミット」においてJiankui HeはCRISPR技術を使ってゲノムを編集した2人の子供が誕生したことを発表し、世界に衝撃を与えました。各界からの非難と犯罪捜査の結果、彼は3年の禁固刑を言い渡されました。この事件は国際的な反響を呼び、遺伝性のヒトゲノム編集の倫理的、科学的、社会的な深刻な問題を再考する必要性を表面化させました。科学の進歩、特にこれまで治らなかった病気の治療を目的とした遺伝性を持たない体細胞遺伝子編集が進む一方で、規制とのギャップが顕わになってきました。3月6日から8日にかけてロンドンで開催された第3回国際ヒトゲノム編集サミットでは、遺伝子編集研究の統制が大きな論点となりました。Heの良心に悖る行動が示したように、倫理的・科学的リスクは相当なものとなっています。

体細胞ゲノム編集介入(例えば、キメラ抗原受容体T細胞や小干渉RNA遺伝子治療などの標的療法)は子孫に伝わらないため、広く利用されています。生殖細胞編集とも呼ばれる遺伝的ゲノム編集は、ヒトの受精や発生学に関する研究、あるいは生殖を目的としたものです。遺伝学的な観点から、生殖細胞系列編集が最も懸念されるのは、改変が子孫に伝わり、世代を超えて予期せぬ望ましくない変化が受け継がれていく危険性があることです。

規制の抜け穴や曖昧さを早急に解消し、科学者が責任を負うことができるようにする必要があります。米国では、遺伝性生殖細胞編集の臨床試験開始申請を受理・審査する目的でFDAが資金を使用することは禁止されています。これは事実上、生殖細胞編集のある部分を違法とするものですが、その実践自体を禁止するものにはなっていません。同様の曖昧さが多くの国であります。人類の集合体である遺伝子プールを保全しながら遺伝子編集を進めるには、より良い国際的なコンセンサスが不可欠です。

2020年の調査では、調査対象96カ国中75カ国が禁止しています。しかし、多くの国では、既存の規制を実施するための効果的な監視・統治機構さえありません。禁止されている目的を実現しようと、そうした技術が使用される可能性が高まっています。国によって政策が異なるため、科学者が規制を回避するために研究を自国外に持ち出す可能性があります。

国連は世界的なコンセンサスを形成する立場にある唯一の機関です。ゲノム編集を管理するための国際的な法的拘束力のある条約の展望が2018年の第2回国際サミットで提起されましたが、それ以上進んでいないようです。科学者たちがヒトゲノムのマッピングを発表してから、約20年が経過しています。今、科学者はゲノムを編集し、個人の遺伝子構成に合わせた真の個別化医療の目標が現実のものとなりつつあります。CRISPRを用いた最初の技術は、鎌状赤血球症に対するもので、まもなく米国の規制当局によって承認される予定です。人類に多大な恩恵をもたらす可能性がある一方で、社会的・倫理的に特有の困難な問題をもたらします。世界的なコンセンサスを確立するためには、科学の進歩と同様に規制もまたダイナミックである必要があります。

原文記事:Human genome editing: ensuring responsible research - The Lancet

Previous
Previous

水と健康:大きな視点で考える

Next
Next

3 年目のコロナ:   ロングCOVID